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福岡高等裁判所 昭和59年(ネ)560号 判決

控訴人 木田明夫こと後藤賢二

被控訴人 国

代理人 糸山隆 調所和敏 ほか四名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人は控訴人に対し、金二〇〇万円及び昭和五六年四月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(四)  仮執行宣言

2  被控訴人

主文同旨

二  当事者の主張

次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりである(但し、原判決七枚目裏一二行目及び同一三枚目裏末行の各「看守長」を各「副看守長」と、同八枚目表五行目(二か所)及び八行目の各「泥捧猫」を各「泥棒猫」と、同八枚目表七、八行目の「激高」を「激昂」と、同一五枚目裏三行目及び同二五枚目表六行目の各「該る」を各「当たる」と、それぞれ改め、同二五枚目裏一〇行目の「同(イ)ないし(エ)」の次に「、同(一)の(3)ないし(8)」を加え、同三四枚目裏末行の「可故出ない」を「何故出ない」と改め、同四二枚目表九行目の「同(三)の(6)の」の次に「柱書部分の」を加える。)から、これを引用する。

(当審における新たな主張及び補足主張)

1  控訴人の主張

(一) 監獄法(以下「法」という。)五九条、六〇条は憲法三一条、一四条に違反し無効であるから、これに基づく本件処分は違憲・違法である。

(1) 憲法三一条は、その規定の位置、文言等から主として刑事手続をその対象としていると解されるが、同条は刑事手続以外にもこれに準ずる生命や自由に関する手続については、たとえ行政手続であつても適用されると解すべきである。なぜならば、生命や自由に関する行政手続は、刑事手続と比較して公権力の行使により国民が不利益を被る被害において何ら質的差異がないからであり、更に憲法の根本規範ともいうべき基本的人権尊重の理念からしても、このような手続をあえて行政手続であるとの理由のみをもつて、刑事手続における人権保障規定の適用がないとすることは全く合理性がないからである。

そして、監獄などの刑事施設における施設当局と被収容者との関係は、被収容者の全生活関係に及ぶものであり、しかも、刑事施設は閉鎖的、密室的環境を有し、ここにおいて施設管理、規律秩序の維持という名目で一方的な命令・服従の関係が強調されるとなると、被収容者に対する人格介入の契機が常に存し、被収容者の人権侵害、人格侵害を生じやすい関係にある。

(2) 法五九条は、「在監者紀律ニ違ヒタルトキハ懲罰ニ処ス」と定めるにとどまり、懲罰の対象となる行為についての規定は抽象的で不明確であり、当該行為に対応して科される懲罰の種類と期間については全く規定を欠く。刑法における刑罰規定(構成要件と法定刑)の明確性は罪刑法定主義の論理的帰結であり、人権保障の要請において、刑罰と懲罰を区別する合理的理由がないことからすると、懲罰規定においても罪刑法定主義の要請である懲罰の対象となる行為と右行為に対応する懲罰の種類及び期間の明確性は当然必要となり、法五九条は憲法三一条に違反する規定であるといわなければならない。

また、懲罰手続についての規定が法に全くないということは、刑罰を科すに際し、刑事訴訟法がないに等しく、そのような手続の定めのない懲罰規定を定める法五九条は憲法三一条に違反することは明らかである。

(3) 法六〇条は、受刑者と未決勾留者とを区別することなく懲罰の種類を規定する。しかし、受刑者は有罪の確定した者であるが、未決勾留者は訴訟上無罪の推定を受ける者であり、防禦権が保障されていなければならず、その身体の拘束は逃走、罪証湮滅防止の目的にとどまるものである。このような両者の地位の相違は、懲罰に際しても当然その種類・程度に反映されなければならない。しかし、法六〇条が受刑者と未決勾留者とを区別することなく懲罰を規定しているということは、懲罰の種類の中に未決勾留者にとつて不合理な種類を含むことになり、かつ、両者に対し同程度の懲罰が科されることとなり、かえつて実質的な法の下の平等(憲法一四条)に反することとなる。このように法的地位の異なる両者を一つの規定で画一的に律することは、その規定の内容において適正さを欠くものといわなければならず、法六〇条は憲法三一条、一四条に違反する。

(二) 本件処分は、法令の解釈を誤つた違憲・違法な処分である。

(1) 本件処分は、軽屏禁罰の執行が当然その期間内の戸外運動、房内体操、入浴の各禁止を伴うとの解釈によつて執行されているが、右は法三八条、六〇条一項八号、規則一〇五条但書、一〇六条に、ひいては憲法三一条、三六条に違反する。

ア 戸外運動及び入浴は人間としての健康を保持するために不可欠なものである。長期にわたる戸外運動禁止の懲罰は重屏禁罰、減食罰と同様人道主義に反し、自由な人格者であることと両立しないものである。また、入浴日に湯を与えて拭身させる程度では健康保持上不衛生極まりない。戸外運動や入浴に関する法三八条、規則一〇五条、一〇六条一項は、憲法二五条、三六条の規定に照らすまでもなく、拘禁関係を人道的で個人の尊厳と両立しうるものとするための最低限度の保障を規定したものである。

軽屏禁罰が戸外運動停止罰よりも重い懲罰であるとか、あるいは軽屏禁罰にいう「屏居」が罰室内に入れて室外に出さないことであるという形式的・一面的な理由により軽屏禁罰の執行が当然に戸外運動及び入浴の禁止を含むと解釈することは、被収容者に与えられる短時間の戸外運動やわずかな入浴の機会がどのような意味をもつかを看過した解釈であり、長期にわたるこれらの禁止を合憲化・合法化することはできない。このことは、法六〇条一項八号が懲罰として、軽屏禁とは別に運動停止を五日以内に制限して定め、かつ、同条三項で懲罰を併科しうるものと定めていることからも明らかである。

軽屏禁罰が監獄内の規律に違反した受罰者を罰室内に分離拘禁し、他の在監者等外界との接触を断ち、静寂孤独の内に置くことにより反省促進の効果を上げることにあるとしても、そのことから直ちに、いかなる場合にあつても受罰者を罰室外に出さないことを合理的に基礎づけうるものではない。人間としての生活を維持するに必要な限りで罰室外に出すことは、人間としての精神的な営みである反省を促進するという軽屏禁罰の目的にいささかも背馳しない。平日四〇分間、土曜日二〇分間の戸外運動及び週二回の入浴はいずれも人間としての健康と衛生を維持するための最小限度の保障であり、このような短時間の出房が軽屏禁罰の目的とする反省促進の効果を否定し尽くすほど妨げになるものではなく、他の被収容者との接触を断つてなされる出房であれば、右屏居の目的に背馳するものではない。

イ 更に、本件では軽屏禁罰の内容として、室外に出る必要のない房内体操さえも一切禁止している。一日一〇分程度の房内体操を午前・午後各一回づつ許容したとしても軽屏禁罰の目的を阻害するものではなく、逆に、房内体操の禁止は、一切の運動の機会を奪うものであつて、人間としての生存を脅かし、個人の尊厳を否定するものであつて、非人道的な措置であることは明らかである。

(2) 未決勾留者は、刑事訴訟法上、訴訟当事者であつて、適正手続のもとで公正な裁判を受ける権利、自己を防禦する権利を有する。したがつて、その具体的内容として、訴訟のため準備を充分に行える権利が保障されなければならず、この権利は憲法上の基本権であつて、懲罰をもつてしても剥奪しえないものである。

ところが、文禁罰は、一切の文書閲読、購入、所持及び筆記の自由を奪うものであつて、右権利を否定するものである。右権利保障の趣旨からすれば、未決勾留者に対して文禁罰を科すこと自体違憲・違法である。仮に、右が違憲でないとしても、少なくとも訴訟関係の文書等は右禁止の対象にならないと限定解釈すべきであり、一切の文書等の閲読を禁止することは憲法三一条、三二条、三七条に違反する。

(三) 沖縄刑務所長は、控訴人に対し、昭和五三年二月二二日から同年一二月一日までの二八三日の期間中に合計二〇〇日間に及ぶ軽屏禁罰を科した。

本件軽屏禁罰の執行内容は、控訴人が拘禁されていた場所は通風及び採光が不完全であつて衛生上も改善されるべき点を多く残している狭い監房であり、その中で、控訴人は、コンクリートあるいは板張上にゴザ一枚を敷いただけの堅い床(座布団使用禁止)の上で、日中ただ黙つて座つていることだけを強制され、その間、横になることも許されず(身体横臥の禁止)、姿勢は一定に保たせられ、生理的に起きる自然な動作さえも許されなかつた。そこにおいては、戸外運動はもとより、房内での体操さえ極度に制限され、窓の外を眺めることもできず、点検等に来る沖縄刑務所職員の外は誰とも会えず、あらゆる外部との接触も禁止され(一般人面会、信書発受、ラジオ聴取の各禁止)、夜になると寝るだけという生活の繰り返しであつた。しかも、文禁罰が併科されているために読書等の精神的営みもできず、数珠の使用も許されなかつた。特に、夏の沖縄は気温が連日摂氏三〇度を超え、しかも湿度は高く、じつとしていても汗ばむ気候であるのに、汗で湿つたランニングシヤツを脱ぐことさえ許されず(上半身着衣着脱禁止)、入浴等は極度に制限され(入浴禁止)、理髪、ひげそり、つめ切りといつた生理的なものに対する処理すら制限を受けていた。

沖縄刑務所長は、右のとおり控訴人に物理的・精神的な外界との接触、生理的に起きる自然な動作でさえ許さず、一定の姿勢を保ち続けるという苦痛を強いた。そればかりか、控訴人が実際に皮膚病(特に汗疱性白癬)、眼病、慢性持続性便秘等の諸症状を有していたのに、沖縄刑務所長は生理的な身体の健康、衛生面での環境を極度に制限した。

本件処分を総体としてとらえた場合、右期間の長期性及びその執行内容からみて、個人の尊厳を否定するものであり、憲法一三条、ひいては憲法秩序全体に違反する。

(四) 軽屏禁罰の執行に当たつては、執行前、執行後及び執行中のいずれについても監獄の医師による診断が必要とされている(規則一六〇条二項、一六一条、一六三条)のに、本件処分の執行に当たつては、右執行前後の健康診断は実施されず、また、執行中においても控訴人が個別に訴えた四回しか診察されなかつた。

法の要求する健康診断を実施しないまま執行された本件処分は違法である。

(五) 本件処分の理由とされた各事実は、いずれも懲罰の対象とはならないと解されるから、本件処分はその根拠を欠き違法である(原判決九枚目表末行から同一五枚目裏七行目の主張の補足)。

(1) 点検拒否

点検制度の目的が被収容者の人員確認と個人識別にあり、併せて被収容者の心身の状況を把握することにあること及び右目的を達するために刑事施設の長が相当の方法により被収容者の点検を行う権限を有することは異論がない。ただ、右点検がプライバシー侵害や行為の強制を伴うことから、右「相当の方法」は、点検制度の目的からみて合理的に許容される限度の内容と方法で行われるべきである。そして、人権侵害防止のために右限界の確定は厳格に定められるべきであり、特に、未決勾留者は、無罪の推定を受け、既決囚と異なり教化目的ということは考えられず、刑事裁判の公正な運営のためにのみ身体拘束を受けているにすぎないのであるから、なおさらである。

本件点検方法の具体的内容である正座又は不動の姿勢での起立、刑務所職員に対する頭礼及び朝夕のあいさつ等の行為強要は、点検制度の目的からみて相当の方法とはいえず違法である。

すなわち、〈1〉正座ないし不動の姿勢での起立が苦痛を伴うことはいうまでもないところ、未決勾留者に対する人員確保と個人識別のためには、安座(いわゆる「あぐら」)ないし立膝で目的を達し、また、控訴人のように独居房に単独で拘禁されている場合には自由動作(特に姿勢等の特定をしないこと)で目的を達し、〈2〉あいさつについては、それが好意に基づき自発的になされるのならまだしも、強要さるべきものではなく、あいさつの強制は人格に対する直接的侵害であり、〈3〉頭礼もあいさつの強制と同様のことがいえ、対等の関係にないという面から屈辱さえ与えるものである。

沖縄刑務所長の定めた本件点検方法は、その目的から許容される限度を逸脱した不必要な精神的・肉体的苦痛を科すものであつて憲法一三条、一八条、一九条に違反し、控訴人には、これに応ずる義務はないから、これを拒否したとしても懲罰理由にならない。

(2) 懲罰委員会出頭拒否

一般に国家が国民に不利益処分を科す場合、その公平さを担保するために告知・聴聞の手続が要求される。すなわち、当該不利益処分を科される者に対して、事態を知らせて防禦の機会を与えるとともに、弁解があればこれを聴取して判断材料に加えることが要請されているのである。本件の出頭要求も右手続の一として理解すべきである。国連最低基準は「いかなる在監者も、自己に対して申し立てられた違反事実について告知を受け、かつ、自己の弁護をする適当な機会を与えられるのでなければ、懲罰されない。権限を有する機関は、事件について十分な審理を行わなければならない。」と定めている。

右の理解からすれば、不利益処分が科されようとしていることの告知を受け弁解の機会を与えられた者が、その機会を利用して弁解をなすか否かはその者の自由であり、権利ではあつても義務ではないというべきである。ある懲罰についての弁解をしなかつたことを根拠に別の懲罰を受けるのであれば、権利保護のために設けられた規定のためにかえつて権利侵害を受けるという自己矛盾を来たしてしまうからである。

控訴人が懲罰委員会への出頭を拒絶したことは、懲罰理由とはならない。

(3) 懲罰、解罰言渡しのための出頭拒否

規則一五九条は「懲罰ノ言渡ハ所長之ヲ為ス可シ」と規定している。右規定の趣旨は、不利益を科すにあたつて言渡しという手続を履践させることにより、被収容者に対して不利益処分を明示して不服申立ての機会を与え、手続の不明瞭さが招来する刑務所側の懲罰権行使の濫用を防止するなど、被収容者の権利保護を図るにあると考えられる。

右趣旨を前提にすれば、まさに相当の方法で言渡しという手続がなされれば法の趣旨は充足されるのであつて、右方法としては、文書による送達(規則の文言は「言渡」であるが、特に口頭主義が確保されなければならない理由はないし、書面主義の方が手続の明確性を確保できる利点も存する。)、当該被収容者の房での言渡し(本件では実際この方法が採られた。)などが考えられる。

監獄の長は、自己の管理する施設内にいる被収容者に対して右いずれの方法を採るのも容易に実行しうる。しかも、必ずしも長自身が言渡しをする必要はなく代理による言渡しも認められており、また、法も出頭確保のための勾引制度などを規定していない。右言渡しの方法の選択については、憲法上の原則に従い可能な限り被収容者の人権を制約しない方法が採られるべきであるから、被収容者に出頭を義務付けることは、より制限的でない他に採りうる方法が存するという観点から憲法一三条に反するといわなければならない。

したがつて、控訴人に懲罰言渡しのための出頭義務はないから、その拒否は懲罰理由とはならない。

このことは、解罰言渡しのための出頭についてもいえることである。

(4) 懲罰、解罰診断拒否

規則一六〇条二項、同一六三条は懲罰、解罰の診断を規定しているが、右規定はいずれも受罰者の保護規定であり、受罰者又は解罰者が診断を拒否したことによつて新たな懲罰を受けるとなると、医師による診断を欠いた際限のない懲罰の連続的執行となり、法の目的から完全に逸脱してしまう。しかも、本件では、控訴人の受診拒否にもかかわらず、刑務所側は簡単な外観診断という方法で自己の義務を履行したとして、控訴人の懲罰が執行されている。

控訴人の懲罰、解罰の診断拒否は懲罰理由とはならない。

(5) 取調べのための出房及び取調べ拒否

取調べのための出房拒否については、控訴人が沖縄刑務所職員の出房せよとの指示に従わなかつたことは争いないが、控訴人は、右指示に対し、取調べには応ずるから房内でやつてほしい旨応答し、沖縄刑務所職員は、これに応じ直ちに入房している。右事実関係に照らせば、刑務所内の規律が害されたとはいえず、取調べの着手という刑務所側の要求はとりあえず満たされている。懲罰権の発動には規律違反事実が必要であり、右事実関係のもとにおいては、いまだ懲罰権発動の理由となる事態は生じておらず、懲罰理由とはならない。

次に取調べ拒否については、懲罰に関し取調べ受忍を定めた規定はなく、また、意に反する取調べ自体が権利侵害を伴うものであり、かつ、憲法上の原則たる法律の留保の趣旨から、右取調べ受忍を定めた規定がない以上、取調べについて受忍義務を科すことはできないといわなければならず、取調べを拒否したことも懲罰理由とはならない。

(6) 暴言及び侮辱

懲罰権の発動には規律違反事実が必要であり、暴言及び侮辱についても同じである。すなわち、発せられた言葉が、単に当該刑務所職員の個人の感情を害することを越えて、刑務所全体の秩序維持を害する高度の危険性を具有したときに、初めて被収容者はその発した言葉故に懲罰に付せられるものであるところ、控訴人に被控訴人主張の暴言及び侮辱の言動があつたとしても、本件においては、まだ刑務所の秩序維持に影響を及ぼしたとは認められないから、懲罰理由とはならない。

(7) 上半身着衣拒否

被収容者といえども奪われてはならない最低限度の権利があり、このことは当該被収容者が受罰中であつてもかわらない。右最低限の権利中に健康保持の権利があることは明らかである。また、軽屏禁罰の懲罰としての目的も、隔離による内省であつて、なんら健康保持に関する諸権利を積極的に剥奪しようとするものではない。

他方、沖縄刑務所において被収容者の上半身裸体が認められていたのは、沖縄という高温多湿の地域において被収容者がその気候条件に生理的に耐え得ないからであつて、すべての被収容者の健康保持上必要と認められていたからである。

軽屏禁罰執行中であるという理由だけで従前の取扱いを変更し、受罰者のみに対して上半身裸体禁止を科したことは、全く根拠のない差別であつて、軽屏禁罰の内容とは無関係に必要最低限度の健康保持に関する権利を剥奪したものであり、上半身着衣を拒否したことは、懲罰理由とはならない。

(六) 本件処分には懲罰に関する裁量権の逸脱があつて違法である。

(1) 本件処分の理由とされている各反則行為は、その行為自体いずれも実害及びその実害発生のおそれは全くなかつたものである。

更に、その行為態様においても、暴言、侮辱は除くとして、他の全ての行為は単なる不作為にとどまる。暴言、侮辱においてすら、懲罰事由としなければならないほどのものではなく、各反則行為の実質はいずれも単に職員の指示どおりにならなかつたということだけであつて、その他に本件処分を合理的に理由付けるものは何もない。

この職員の指示どおりにならなかつたということ自体が実質的な懲罰理由であつたとすれば、それは形式犯にすぎず、控訴人が受けた懲罰の種類と内容は著しく不相当な処分であつたといわなければならない。

(ア) 点検拒否について

右は単に職員の指示を黙視・黙殺するという消極的な形で行われており、しかも、控訴人は独居拘禁されていたことから、点検の目的である人員確認、個人識別は控訴人の点検拒否にかかわらず容易になしえたものであり、点検本来の目的は侵害されていない。

(イ) 懲罰委員会出頭拒否について

懲罰委員会への出頭を求め得たとしても、そこでは少なくとも黙秘権は認められるべきであるから、懲罰委員会へ出頭しなくても刑務所の懲罰権行使に与える影響は黙秘権を行使する場合と同じであり、刑務所の懲罰権行使にいささかも影響を与えない。

(ウ) 懲罰、解罰言渡しのための出頭拒否について

右出頭拒否のために懲罰の執行ができなかつたとか、執行に何らかの障害が生じたということはない。

(エ) 懲罰、解罰診断拒否について

右診断はいずれも受罰者保護のために認められているものであり、受罰者自ら診断を拒否する以上、右診断によつて保護しようとする利益の侵害はない。また右診断拒否によつて懲罰の執行ができなかつたとか、執行に何らかの障害が生じたということはない。

(オ) 取調べのための出房拒否及び取調べ拒否について

取調べのための出房を拒否したからといつて、刑務所の懲罰権行使に影響を与えるものは何もなく、控訴人が独房にいたことを考えれば、その場での取調べも十分可能であつて、必ずしも出房しなければ取調べができないというものでもなかつた。

取調べ拒否についても、取調べの質問に応じる義務がない以上、刑務所の懲罰権行使にいささかも影響しない。

(カ) 上半身着衣拒否について

沖縄刑務所においては、一般の被収容者は、上半身裸体が許されており、受罰者においても、長年上半身裸体が許されていたところ、昭和五三年六月になつて、受罰者のみ上半身裸体を禁止した。以上の経過からすれば、独居拘禁されていた控訴人が上半身着衣を拒否したからといつて、そのことがことさら他の被収容者に影響を与えるということは全くない。

(キ) 暴言、侮辱について

暴言、侮辱と評価された言葉は、控訴人の独居房の中で、数名の沖縄刑務所職員のいるところで発せられたものばかりであり、その間だけの問題に限定され、他の被収容者への影響というものは全く考えられない状況であつて、刑務所の秩序維持に大きな影響を与えるようなものではなかつた。しかも、その内容は、職員とのやりとりの中でやや言葉が過ぎたという程度にとどまり、また、右言葉は、控訴人が何の理由もなく沖縄刑務所職員に対して非難の言葉を発したものではなかつた。

(2) 反則行為の軽微性に比べ、本件処分は極めて重罰が科されている。軽屏禁罰は、重屏禁罰が違憲とされている今日において(大阪地方裁判所昭和三三年八月二〇日判決、行裁例集九巻八号一六六二号)、法六〇条一項に定める一二種類の懲罰の中で運用上最重罰である。また、期間においても、五〇日というのは、最高期間六〇日に次ぐものである。昭和五四年二月二一日沖縄刑務所長達示第三号「科罰規定の制定について」においても、平均罰が軽屏禁罰五〇日の対象になつている反則行為は「職員を傷害」であり、「逃亡未遂」、「職員に暴行」、「収容者を傷害」などでも平均罰としては軽屏禁罰五〇日ということにはなつていない。このことは、昭和五二年一二月八日付福岡矯正管区第二部長の科罰基準参考案においても同様である。更に、前記所長達示には点検拒否が明示され、これは「落書き」、「争論」、「自殺未遂」、「静ひつを乱した行為」などと同様に位置づけられており、軽屏禁罰五〇日という本件処分は極めて重いといわなければならない。しかも、本件では軽屏禁罰五〇日に併科して文禁罰も科されている。

もつとも、本件処分は、控訴人がそれ以前に同種反則行為を繰り返した結果、懲罰が累増的になつたものではあるが、東京拘置所では累増科罰方式は採用しておらず、その差異は憲法一四条で保障する法の下の平等に反する。

仮に、累増科罰方式を肯定するとしても、その累増される範囲は一定の限度があり、累増が認められたとしても、最終的には反則行為とその反則行為に対して科される懲罰の種類及び期間の間には均衡が保たれなければならない。なぜならば、懲罰制度は、規律維持を目的として存するものであつて、懲罰権行使は右目的に規制され、規律侵害の程度に相応した限度で是認されるものであるからである。そうでなければ、本来の懲罰目的から遠く離れ、単に懲罰すること自体を目的とした懲罰が許容されることになる。

ところが、本件処分においては、当初は最も軽い叱責であつたものが、累増に累増を重ねた結果、運用上最重罰とされている軽屏禁罰のしかも五〇日を科されており、ここでは一定の限度といつたものは考えられておらず、とにかく累増に累増を繰り知し、結果的にいきつくところまでいきついたという感がある。まさに、右事実は懲罰権行使が目的を見失い、控訴人をただ懲らしめることのみを目的としてなされたことを示すものである。

本件において最終的に科された軽屏禁罰五〇日への累増はその限度を著しく超えた懲罰であつたといわざるを得ない。

次に、その累増の上げ幅についても、昭和五二年一一月八日に軽屏禁罰三〇日の懲罰が科された後は、同年一二月二〇日にいきなり軽屏禁罰五〇日を科している点で合理性を欠く。その前までは、一〇日間の累増が一度行われたことがあるが、他は全て五日間の累増にとどまつている。たとえ累増方式が認められるとしても本件のように一度に二〇日もの累増をすることは、もはや累増方式の趣旨を逸脱した違法なものである。

以上本件処分における軽屏禁罰五〇日への累増は、その科罰日数及び累増の上げ幅の両面からして合理的範囲を著しく逸脱しているものである。

2  控訴人の主張に対する被控訴人の認否及び反論

(一) 控訴人の主張(一)は争う。

法五九条は「在監者紀律ニ違ヒタルトキハ懲罰ニ処ス」と規定し、法六〇条は懲罰の種類等を規定しているだけであるが、監獄のような集団生活においては規律違反といつてもその内容等は種々雑多で、予め予定して法に明記することは困難であり、しかも、懲罰は監獄の秩序を維持するために科される行政上の秩序罰であつて刑事罰とその本質を異にし、厳格な意味での罪刑法定主義の適用が要請されるものではないから、右各規定は憲法三一条に違反するものではないと解すべきである。

しかも、本件においては沖縄刑務所長は所長達示でもつて「所内生活の心得(未決収容者)」を定めて冊子にし、各収容者の居房に備え付けて閲覧させているが、それによれば「遵守事項と賞罰」の項において禁止する行為と懲罰の種類を明記し、懲罰は二つ以上併科されることがあること、軽屏禁罰においては面会(但し、弁護人面会を除く。)、発受信、屋外運動、入浴、理髪及びラジオ聴取が原則として禁止されることが記載されている。

また沖縄刑務所においては、「紀律違反者措置内規について」と題する達示において、懲罰が刑事施設の職員の恣意で運用されることを防ぐため、所長、管理部長、保安課長等で構成する懲罰委員会が本人に弁解の機会を与えたうえ慎重審議することになつており、また、科罰の内容(懲罰の種類、懲罰の日数)についても「科罰規定の制定について」と題する達示において規律違反行為ごとに最高罰、平均罰、最低罰を定め、被収容者の人権を十分尊重しながら懲罰を行つており、何ら責められる事由はない。

また、法五九条、六〇条が既決、未決の区分をしなかつた点についても、懲罰が監獄内の秩序維持と規律違反者に対して反省を促すことを目的とするものである以上、監獄内に拘禁されその規律を守るべき立場にある既決、未決の収容者で明確な差異を設けるべき必然性はない。

(二) 控訴人の主張(二)は争う。

軽屏禁罰は当然戸外運動、入浴、房内体操の禁止を伴うものと解すべきである。もとより、受罰者の健康を害することが懲罰の目的ではなく、規則一六〇条二項、一六一条、一六三条において軽屏禁罰執行前後及び執行中における医師の健康診断を義務づけ、法六二条一項は疾病その他特別の事由があるときの執行停止を規定するなど受刑者の健康保持に配慮している。しかも、沖縄刑務所においては、昭和五三年一月一七日付達示第一号「軽屏禁罰執行中の収容者に対する運動及び入浴の実施について」において示された基準どおり運動及び入浴を実施し、受罰者の健康保持に十分配慮した処置を実施している。

文禁罰がものを読む事由を奪い、無聊に苦しむという消極的苦痛を与える処分で、軽屏禁罰に併科されることによつて軽屏禁罰の目的(受罰者に対しある程度の精神的肉体的苦痛を与えることにより反省を促し、もつて監獄の秩序の維持を計ること)の実現をより一層高めるものである以上、未決勾留者と受刑者とを区別して扱う必要は全くない。

控訴人は文禁罰が訴訟書類を含む一切の文書の閲読を禁止するものであると主張するが、判決書等の訴訟書類等については文禁罰の対象とされていない。また、沖縄刑務所においては、文禁罰執行中においても訴訟活動のため必要があれば右執行を停止しており、控訴人についてもその願い出によりその都度執行停止をしていたため、文禁罰二〇〇日の間に執行されたのはわずか六日に過ぎず、控訴人の刑事被告人としての防禦権を侵害したことはない。

(三) 控訴人の主張(三)は争う。

控訴人は、本件処分以前の昭和五一年一月三〇日に点検拒否等で叱責処分を受け、その後も同様の反則行為を執拗に繰り返し、わずか二年足らずの間に一三回の軽屏禁罰等の処分を受けており、どのような反則行為をすればどのような処罰を受けるか、あるいはこれまでの処分歴から同じ反則行為でも初犯者と比較して重い処罰を受けることを十分熟知しながら、その後も何の反省もなく反則行為を繰り返したのであるから、結果として懲罰期間が長期に及んだとしても、それは控訴人自らが招いた結果であつて、当然甘受すべきである。

そもそも、軽屏禁罰執行中又はそれに近接する時点で規律違反行為が繰り返された場合に、これに対する懲罰を遷延させることは、本人に対する教育的効果及び他の収容者に対する一般予防の両面において懲罰の実行性を損なうこととなり、本人の健康を損なうおそれがない限り、懲罰の決定及び執行は速やかになされるのが当然であり、それによつて懲罰の期間が総体として長期になつてもやむを得ないというべきである。

(四) 控訴人の主張(四)は争う。

沖縄刑務所は、本件処分を執行するに当たり、また、執行終了後、更に執行中、法及び規則の要求する医師の診断を実施しており、本件処分につき違法な点はない。

(五)(1) 控訴人の主張(五)(1)は争う。

監獄は、多くの被収容者を拘禁し、これを集団として少数の職員が管理する人的物的施設であるが、被収容者の中には暴力団の構成員や粗暴的性格を有する者などが多数含まれており、その秩序を維持するためには、監獄の運営について長年にわたつて培つて得た関係法令及び実務に関する知識と経験に基づき、監獄の長が「所内の生活の心得」を定めてその規律を確立し、それに基づいて被収容者の指導、取締りを行い、規律を厳守させることが必要不可欠なのである。監獄に拘禁された被収容者の全生活について監獄の長及びその職員は重い責任を負つており、監獄内の秩序が維持されることは施設内の平穏の観点からはもとより、被収容者の生命、身体の安全の確保の観点からも重要であり、監獄の長及びその職員は規律を維持するため合理的な限度において被収容者に対し、命令し、それに違反すればそれを理由として処罰できると解すべきであり、法五九条、六〇条はかかる観点から規律違反者に対する処罰を定めているものである。そして、右「紀律」の具体的内容としては刑罰法令により犯罪として禁じられている事項の外規則二二条二項により「在監者遵守事項ハ冊子トシテ之ヲ監獄内ニ備ヘ置ク可シ」と規定して、被収容者が遵守しなければならない事項を監獄ごとにその長が作成することになつており、沖縄刑務所においても前記のとおり「所内生活の心得(未決収容者)」が作成され、被収容者も同刑務所内の規律の内容を十分認識していた。

点検は、監獄における被収容者に対する拘禁業務を全うするためのものであつて、これによりすべての被収容者の人員確認及び個人識別を行い、あわせて被収容者の顔色、身体状況の変化及び挙動などを観察して各人の心身の状況を把握し、逃走・自殺等の刑務事故や暴行・自傷その他の規律違反行為を未然に防止する機能を有しており、監獄の保安警備上欠くことのできない基本的業務であり、単なる人員確認のためだけにあるものではない。このために、沖縄刑務所においても、「所内生活の心得(未決収容者)」において点検方法について記載し、被収容者に周知徹底させている。

起立又は正座点検についても、被収容者を観察するため最も適した点検方法として採用されており、更に正座点検においては、点検時に居房を開扉した際、被収容者が突如房外に飛び出して逃走したり、職員に対する暴行を企てたりするのを防止するため採用されており、しかも、点検に要する時間は数分間程度であるから、被収容者に精神的肉体的苦痛が生じるとは考えられない。なお、控訴人は、点検の際あいさつと頭礼を強要されたと主張するが、そのような事実はなく、あいさつや頭礼をしなかつたことによつて処罰をした事実はない。

(2) 控訴人の主張(五)の(2)ないし(5)は争う。

監獄の業務を管理運営する監獄の長は、その業務を円滑かつ適正に遂行するため被収容者に出房等の指示をなし、かつ、その指示に従わせる権限を有すると解すべきである。監獄の長は、監獄の規律を維持する全責任を負つており、その規律を維持するために必要な限度で被収容者に対し指示し、これに従わせることが必要であり、法に定めていなければ被収容者に何の指示もできないというものではない。右指示もできないということになると、被収容者各自がそれぞれ勝手な行動を採り、監獄が統制のとれない無法地帯となり、監獄の目的は達せられないこととなる。

控訴人が問題としている懲罰委員会への出頭についても、懲罰権を適正に行使するため本人から事実関係や弁解を聴取することは不可欠のことであり、懲罰、解罰言渡しのための出頭についても懲罰権を行使するに当たつて、あるいは懲罰権の行使が終了するに当たつて、そのことを本人に告知してその反省を促すことは懲罰の効果を高めるため極めて有用なことであり、懲罰、解罰のための診断拒否についても、監獄の長は被収容者の健康を保持する責任を負つており、その責任を尽くすため懲罰権の執行の前後に被収容者に受診させることは当然の責務であり、取調べのための出房拒否、取調べ拒否についても監獄の長は懲罰権を行使する権限を有するものであるから、その前提として本人から事情聴取し得ることは、懲罰権の適正な運用の見地からも当然のことであり、監獄の長がこれらの指示を被収容者に与えることは適正な業務の遂行であるから、その指示に従わなければ、そのこと自体刑務所内における業務を妨害しようとしたものであり、右指示に従わなかつた者が規律違反者として処罰されることは当然である。

控訴人は、懲罰委員会への出頭や懲罰、解罰診断等について、これらは被収容者の利益のための制度であるから、それらを拒否してもそのことによつて不利益を受けるいわれはない旨主張するが、これらの制度は被収容者の利益のためだけでなく、懲罰権を適正に運用するために設けられた規定であつて、その運用を実効あらしめるためには被収容者に出頭義務や受診義務等を認めなければならない。

(3) 控訴人の主張(五)の(6)は争う。

被収容者の監獄職員に対する暴言・侮辱に対し、何ら処罰が許されないとしたら、所内は暴言・侮辱で満ちあふれ監獄は不法の場と化してしまい。いきつくところ監獄職員の指示に従わず、監獄内の秩序が崩壊しかねないことはいうまでもない。

(4) 控訴人の主張(五)の(7)は争う。

軽屏禁罰は受罰者を独居拘禁させて謹慎させ、精神的孤独の中から自己の反則行為について反省悔悟させることを目的とするものであるから、服装においてもそれ相応の身だしなみが必要であり、沖縄刑務所が上半身裸体を禁止し、ランニングシヤツの着用を義務づけることは当然のことといわなければならない。

なお、控訴人が主張する沖縄刑務所の気象条件については、舎房に網戸を取りつけるなどして通風の改善をはかつており、上半身裸体にならなければその生命健康に悪影響を及ぼすということは考えられない。

(六) 控訴人の主張(六)の(1)は争う。

控訴人は、沖縄刑務所に入所以来、刑務所は国家権力の象徴であり、これを破壊することが国家権力の破壊につながるとして、点検を拒否し、そのために懲罰を受けると「不当懲罰粉砕」等と称して執拗に規律違反行為を繰り返していた者であり、その規律違反行為は明らかに同刑務所の秩序破壊を目的としたもので、単純な点検拒否等とは異なり、極めて悪質なものであり、本件処分はいずれも、法、規則、監獄局長通牒、所長達示等の法令に照らし、いずれも同刑務所長の裁量の範囲内のものであつて、合法的かつ妥当な科罰であるといわなければならない。

控訴人は、沖縄刑務所が懲罰に関して累増科罰方式を採用していることを違憲・違法と主張するが、同じ違反行為でも何度も繰り返せば反省の態度が認められないとして、その都度処罰を重くすることは、本人が再び違反行為を繰り返さないためにも、また、一般予防の見地からも必要なことであり、監獄のみならず、刑事罰や他の行政罰の分野においても広く行なわれているところであつて、沖縄刑務所だけが受罰者に過酷な処分をしているわけではない。

監獄の長が規律違反者に対し、どのような処罰の方法を採るかについては、監獄内の安全と秩序維持に責任を負い、監獄内の実情に通じている当該監獄の長の裁量に属していると解すべきで、東京拘置所長が累増科罰方式を採用していないからといつて、それに沖縄刑務所長が拘束されるいわれはなく、規律維持を図る上で極めて有効であり、ほかの監獄などでも広く採られている累増科罰方式を採つたとしても、なんら違憲・違法の問題が生じる余地はない。

三  証拠 <略>

理由

一  控訴人の身分関係及び本件処分について

控訴人が昭和五〇年七月爆発物取締罰則違反等で起訴され、同年九月四日から昭和五三年一一月六日までは未決勾留として、刑確定後の同月七日から昭和五四年三月一四日までは刑の執行として沖縄刑務所に拘禁されていた者であること(請求原因1の事実)、控訴人が沖縄刑務所長長谷川永から本件処分(〈1〉昭和五三年二月二二日言渡しの軽屏禁罰・文禁罰の併科五〇日、〈2〉同年五月一一日言渡しの軽屏禁罰・文禁罰の併科五〇日、〈3〉同年七月二六日言渡しの軽屏禁罰・文禁罰の併科五〇日、〈4〉同年一〇月一三日言渡しの軽屏禁罰・文禁罰の併科五〇日)を受けたこと(請求原因2の事実)は、当事者間に争いがない。

二  法五九条、六〇条が憲法に違反するとの主張について

1  控訴人は、法五九条、六〇条が憲法三一条に違反し無効であるから、これに基づく本件処分は違憲・違法である旨主張する。

ところで、未決勾留は、刑事訴訟法の規定に基づき、逃走又は罪証湮滅の防止を目的として、被疑者又は被告人の居住を監獄内に限定するものであつて、右勾留により拘禁された者は、その限度で身体的行動の自由を制限されるのみならず、前記逃走又は罪証湮滅の防止のために必要かつ合理的な範囲内において、それ以外の行為の自由をも制限されることを免れないのであり、このことは、未決勾留そのものの予定するところであり、憲法もこのことを容認しているものというべきである。また、監獄は、多数の被拘禁者を外部から隔離して収容する施設であり、右施設内でこれらの者を集団として管理するに当たつては、内部における規律及び秩序を維持し、その正常な状態を保持する必要があるから、監獄の長は、これを乱す者がいる場合には、その者が未決勾留によつて拘禁されている者であつても、その者に対し、必要にして合理的な範囲内において行政上の制裁である秩序罰としての懲罰を科すことが許されることは当然であり、秩序罰としての懲罰を未決勾留者に科すことが憲法に違反するものではないことはいうまでもない。

そして懲罰は、本来監獄における規律及び秩序維持を目的とした行政上の秩序罰であるから、刑罰とはその本質を異にし、厳格な罪刑法定主義の適用があるわけではない。もとより、懲罰が受罰者に対し不利益な制裁を科すものであることからすると、人権保障の見地上、懲罰の対象となる規律違反行為とそれに対応する懲罰の種類・内容を明示することが望ましいことではあるが、規律違反の種類・態様は、監獄という拘禁関係のもとにおいては多種多様であつて、予想し難い内容の規律違反行為が発生する可能性を否定できず、これに対し、何らの対応もできないという事態を招くことは、監獄の特殊性から容認することはできない。懲罰の対象となる行為をいかなる範囲で法定化すべきかは立法政策に委ねられた事項というべきであり、法五九条、六〇条が憲法三一条に違反するとはいえない。

そうすると、法五九条、六〇条が憲法三一条に反する旨の控訴人の主張は理由がない。

2  次に控訴人は、未決勾留者と受刑者とはその立場を全く異にするのに、法六〇条はこれを区別することなく懲罰を規定しており、同条は憲法一四条及び憲法三一条に反する旨主張する。

確かに、未決勾留者と受刑者とが、その拘禁目的を異にしていることは、控訴人主張のとおりであるが、未決勾留者であつても、また、受刑者であつても、監獄内における規律及び秩序を維持しなければならない義務を負うことは同じであり、右立場の違いによつて、右義務の内容や程度が異なることはなく、法六〇条が未決勾留者と受刑者とを区別することなく懲罰を規定しているからといつて、同条が憲法一四条及び憲法三一条に反するといえないことは明らかである。

そうすると、法五九条、六〇条が憲法一四条及び憲法三一条に反する旨の控訴人の主張は理由がない。

三  本件処分の理由とされた各事実がいずれも懲罰の対象とはならない旨の主張について

1  懲罰が、監獄における秩序維持を目的とした行政上の秩序罰であつて、厳格な罪刑法定主義の適用がなく、その対象となる規律違反行為の法定化が立法政策に委ねられた事項であることは前述のとおりであるが、懲罰が受罰者に対して不利益な制裁を科すものであることからすると、懲罰の対象行為を事前に周知させるなど、懲罰権の発動及び執行については、憲法の基本原則である人権保障の趣旨が尊重されなければならないことはいうまでもない。

そこで、法及び規則をみるに、法は、五九条において「在監者紀律ニ違ヒタルトキハ懲罰ニ処ス」と定め、六〇条において懲罰の種類、内容及び併科について明らかにしたうえ、規則は、一九条一項において「所長ハ在監者ノ遵守スベキ事項(中略)ヲ入監者ニ告知ス可シ」と、二二条二項において「在監者遵守事項ハ冊子トシテ之ヲ監房内ニ備ヘ置ク可シ」と、一五九条において「懲罰ノ言渡ハ所長之ヲ為ス可シ」と定め、そして、規則一六〇条ないし一六六条が執行手続、執行と健康との関わり等について規定している。法及び規則の各規定は、監獄の長に懲罰権のあることを明らかにしたうえ、監獄の長が規律違反者に対して科し得る懲罰の種類・内容等を一定の限度で包括的に委任するとともに、監獄の長が当該施設の物的・人的状況に応じた遵守事項を定めてこれを在監者に周知させることによつて、懲罰対象事由を明らかにして監獄内の規律及び秩序の維持を図ることを明らかにしているものと解するのが相当である。もとより、規律違反の種類・態様が多種多様であつて、予想し難い内容の規律違反行為が発生する可能性があり、これに対しても監獄において対応の必要があることは前記のとおりであり、右遵守事項の中に一般的・抽象的な事項が含まれることはやむをえないものといわなければならない。

これは、当該監獄の場所的・地理的環境、当該施設の保安・管理面における物的・人的状況、当該施設内の被収容者の動静等により、各監獄の保安・管理状況が異なり、当該施設の安寧秩序を維持するために必要な遵守事項や規律違反に対する対応もおのずと異ならざるをえない監獄の特殊性から、監獄内の実情に通暁し、直接その衝に当たる監獄の長が監獄内の規律及び秩序の維持を図るために必要な遵守事項を定め、被収容者に周知させるとともに、これに違反した者に対し、懲罰の種類・内容等の決定を含め臨機に必要な対応をする権限を与えたものであり、監獄の長が、如何なる規律又は秩序違反行為につき、如何なる手続により、如何なる種類・内容の懲罰を科し又は併科するかについては、その裁量事項に属するものであるといわざるをえない。そして、右に直接関連する事項については、監獄の長は被収容者に対し個々の具体的行為の指示・命令ができるものと解するのが相当である。

もとより、監獄の長の裁量権といえども、無制限ではなく、懲罰の趣旨・目的を逸脱したものであつてはならないことはいうまでもない。更に、懲罰対象行為が在監者に対して課された義務違反として規定されることからすると、在監者に対する義務の設定は在監者の自由に対する制限という面をもち、在監者の基本的人権と抵触する可能性がある。そこで、右自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、監獄の規律及び秩序維持のために懲罰対象行為として在監者の自由を制限する必要性と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決せられるべきである。懲罰手続及び執行に当たつても、懲罰対象者又は受罰者の基本的人権が尊重される必要があり、懲罰対象者が懲罰対象行為につき弁解できる機会が与えられる必要があるだけでなく、懲罰の執行については健康保持などのための処遇のほか、未決勾留者についてはその防禦権の尊重のために執行の際又は執行の過程において執行の一部停止などの措置がなされる必要があるといわなければならない。

そして、<証拠略>によれば、沖縄刑務所においては、本件処分当時、昭和五二年九月一日付沖縄刑務所長達示第三号をもつて「所内生活の心得(未決収容者)」を定めて冊子にし、各未決収容者の居房に備え付けて閲覧させており、それによれば遵守事項として二八の行為を掲げ、右遵守事項に違反したときは処罰されることがあること、そして、懲罰として法六〇条に規定する懲罰の種類を例示したうえ(但し、同条一項の二号、三号、一〇号、一二号の懲罰は除かれている。)、懲罰は二つ以上併科されることがあること、軽屏禁罰においては、面会(但し、弁護人面会を除く。)、発受信、屋外運動、入浴、理髪及びラジオ聴取が原則として禁止されることがそれぞれ明記されていたことが認められ、これによれば、控訴人は、沖縄刑務所においてどのような行為が遵守事項違反に当たり、どのような処分をされるかは十分認識していたものであるといわなければならない。

また、<証拠略>によれば、本件処分当時、沖縄刑務所においては、規律違反の真相を解明し、違反者を適正かつ迅速に措置することを目的として「紀律違反者措置内規について」と題する昭和四八年四月一〇日付沖縄刑務所長達示第一九号が一部変更されて実施され、右によれば、管理部長、保安課長等によつて構成する懲罰委員会を設け、懲罰委員会は、懲罰に付すことを相当と認める場合、懲罰委員会において本人に弁解の機会を与えたうえ懲罰事由の取調べを行い、右調査に基づき、懲罰に対する意見を懲罰権者である刑務所長に対し具申する権能を持ち、刑務所長は右懲罰委員会の意見を聞いて、懲罰に関する決定をしていたこと、本件処分当時、沖縄刑務所においては、過去の懲罰事犯の種類・内容及びこれにつき科された懲罰の種類・内容を参考に懲罰基準というべきものが形成され、右基準は、昭和五四年二月二一日付沖縄刑務所長達示第三号「科罰規定の制定について」をもつて、規律違反行為ごとに最高罰、平均罰、最低罰として規定されたことが認められ、これによれば、控訴人は、本件処分に当たり、懲罰対象行為につき、弁解・弁明する機会が与えられるとともに、恣意に基づく懲罰を受けないように配慮されていたといわなければならない。

2  そこで以下、控訴人の主張する各事実について判断する。

(一)  点検拒否について

沖縄刑務所においては、本件処分当時、「所内生活の心得(未決収容者)」(昭和五二年九月一日付沖縄刑務所長達示第三号)に従い、毎日午前七時四〇分(日曜、祝祭日は午前八時一〇分)及び午後五時の二回にわたり被収容者に対する点検を行つていたこと、右点検方法は、〈1〉点検の号令がかかつたら服装を整え、正面とびらに向かい房内の定位置に起立する、〈2〉点検の職員が前に来たら呼称番号を言う、〈3〉点検終わりの号令があるまで定位置で静かに起立している、というものであつたこと(〈2〉の際、頭を下げてあいさつをするという内容が含まれていたか否かについては、後述のとおりである。)は、当事者間に争いがなく、請求原因2の(一)の(1)の(ア)、同(二)の(1)の(ア)、同三の(1)の(ア)及び同(四)の(1)の(ア)記載のとおり、刑務所長の定める方法による点検を控訴人が拒否したことは控訴人において明らかに争わない(但し、同(三)及び(四)の各(1)の(ア)の事実中、控訴人が点検拒否理由として刑事訴訟規則違反をあげたとの点については、<証拠略>により認められる。)ところである。

控訴人は、沖縄刑務所における具体的点検方法である正座又は不動の姿勢での起立、刑務所職員に対する頭礼及び朝夕のあいさつなどの行為の強要は点検制度の目的からみて相当の方法とはいえず、違憲・違法である旨主張するところ、<証拠略>によれば、控訴人は、沖縄刑務所に収監された時に行われたオリエンテーシヨンの際に、沖縄刑務所職員から、点検の際に、朝は「おはようございます。」、夕方は「こんばんは。」とあいさつをするように指導を受けたこと、控訴人は本件処分当時いわゆる外人房に拘禁されていたものであり、同所における点検は、居房がコンクリート敷のため、正座ではなく、定位置に正面を向いて起立する方法で行われていたこと、が認められ、これに反する証拠はない。控訴人は、右あいさつ以外にも、沖縄刑務所職員が控訴人に対し、点検の際には頭を下げるよう指示した旨主張し、これに副う<証拠略>があるが、<証拠略>に照らし措信し難く、他にこれを認めるに足る証拠はない。

ところで、沖縄刑務所等の監獄は、刑の執行及び逃走、罪証湮滅等の防止目的のもとに、多数の受刑者、刑事被告人その他の者を収容する国の施設であるが、その目的を達成するためには、施設の長において被収容者の人員確保、個人識別を行い、併せて被収容者の心身の状況及び房内の異常の有無を把握して、逃走、自殺、自他傷などの刑務事故や規律違反を防止するため、更に被収容者の健康等の確認のために相当の方法により被収容者の点検を行う権限があるものと解するのが相当である。そして、監獄においては比較的少数の職員で、多数の被収容者を処遇せざるを得ないことに照らせば、点検目的を簡易迅速に達成し、かつ、点検時の事故防止を図るため、点検方法を定めるにあたつては、監獄の長に裁量の余地があるものと解するのが相当である。もとより、右裁量といえども、点検の目的に照らして不相当なものであつたり、被収容者に無用な苦痛を強いるものであつてはならたいことはいうまでもない。

そこで、沖縄刑務所における点検方法につき、右観点から判断するに、沖縄刑務所における点検方法は前記認定のとおりであり、<証拠略>によれば、沖縄刑務所において行われていた点検の所要時間は一房あたり約三分ないし五分であり、控訴人が点検時に起立を要求されていた時間は右約三分ないし五分であつたことが認められる。そして、点検制度の前記目的のうち、個人識別のためには被収容者に点検をする職員と対面させることが必要であり、被収容者の心身の状況特に健康状態及び房内の異常の有無などの把握のためには、被収容者に特定の位置に一定の姿勢を維持させたうえ、被収容者の声や表情などを確認して判断する必要があり、定位置に正面を向いて起立させる方法はその所要時間を考慮すると、相当な方法であるといわなければならない。

この点、控訴人は、控訴人のように独居房に単独で拘禁されている場合には姿勢等の特定をしない自由動作による点検姿勢で目的を到達することができる旨主張するが、自由動作では、人員確認はできても、個人識別及び被収容者の心身の状況把握は十分でなく、個人識別及び被収容者の心身の状況特に健康状態などの把握のためには、被収容者に一定の姿勢を維持させたうえ、点検をする職員と対面させることが必要であることは前記のとおりである。控訴人は、毎週土曜日の昼食後の点検は自由動作で、かつ、呼称番号を唱える必要もなく、点検の目的を達していた旨主張するところ、<証拠略>によれば、沖縄刑務所における毎週土曜日の昼食後の点検は控訴人主張の方法で行われていたが、それは土曜日の午後に行われる職員の交代のため、人員の確認を中心としたいわば仮点検ともいうべきものであつて、個人識別及び被収容者の心身の状況把握は直接の目的となつていないことが認められ、右簡易な点検方法を土曜日の昼食後に行つているからといつて、朝夕の点検方法が違法、不当であるとはいえない。

また、控訴人は、あいさつはそれが好意に基づき自発的になされるのならまだしも強要されるべきものではなく、点検時のあいさつの強制は人格に対する直接的侵害である旨主張するところ、<証拠略>によれば、本件処分においては控訴人が点検時あいさつをしなかつたことを処分事由としておらず、前記控訴人に対して行われたオリエンテーシヨン時のあいさつに関する説明は、単なる指導であつて、指示または命令であるとはいえず、沖縄刑務所があいさつを強要したとはいえないことが認められ、これに反する<証拠略>は措信し難い。そして、沖縄刑務所が控訴人に対し朝夕の点検時のあいさつを指導したからといつて、前記内容・程度ではこれをもつて、人格に対する侵害であるとはいえない。

そうすると、点検方法が憲法一三条、一八条、一九条に違反する旨の控訴人の主張は理由がない。

(二)  取調べのための出房及び取調べ並びに懲罰委員会出頭拒否について

請求原因2の(1)の(一)の(イ)及び同(二)の(エ)記載の懲罰委員会への出頭を拒否した事実は、控訴人が明らかに争わないところであり、<証拠略>によれば、請求原因2の(三)の(1)の(キ)及び同(四)の(1)の(コ)記載の取調べのための出房を拒否し、取調べを拒否した事実が認められ、これに反する<証拠略>は措信し難い。

なお、控訴人は、出房拒否につき、出房を指示した伊志嶺副看守長自らが取調べのため控訴人の房に入つたことにより、出房指示自体が取り消された旨主張するところ、本件全証拠によるも、右出房指示が取り消されたものとは認められない。

法五九条、六〇条によれば、監獄内において規律に違反した者に対し懲罰を科すことができるのであるから、懲罰権者は、規律違反事由があると思料するときは、事実を確認するため相当の方法により、規律違反事由の有無・程度などにつき調査できるものと解するのが相当であり、そのために規律違反を犯したと思われる者を取り調べることができ、同人は右取調べに応じる義務があるものといわなければならず、右に随伴する取調室への出頭及び出房を命じ、又は、事実の確認及び懲罰対象者から弁解を聞くために、刑務所内に設けられた委員会に出頭を命じることもできるものといわなければならない。

<証拠略>によれば、沖縄刑務所には懲罰対象者を取り調べるために必要な設備を備えた取調室が用意されており、懲罰対象者の取調べは通常同室で行われていたことが認められ、沖縄刑務所長が職員をして懲罰対象行為の有無・内容を調べさせるために、控訴人に取調室への出頭及びそのための出房を命じることは、取調べの便宜のみならず懲罰対象者の名誉を保護することにもなり、違法といえないことはいうまでもない。

また、沖縄刑務所においては、本件処分当時、規律違反の真相を明らかにし、違反者を適正かつ迅速に措置することを目的として、管理部長、保安課長等によつて構成する懲罰委員会を設け、懲罰委員会は、懲罰に付すことを相当と認める場合、懲罰委員会において本人に弁解の機会をあたえたうえ懲罰事由の取調べを行い、右調査に基づき、懲罰に対する意見を懲罰権者である刑務所長に対し具申する権能を持ち、刑務所長は右懲罰委員会の意見を聞いて、懲罰に関する決定をしていたことは前記のとおりであり、右懲罰委員会設置の目的及び機能からすると、控訴人に対し、懲罰委員会に出頭を命じることが違法といえないことはいうまでもない。

控訴人は、懲罰委員会は本人に弁解の機会を与える場にすぎず、弁解するしないは本人の自由であるから、控訴人は懲罰委員会に出頭する義務はない旨主張するところ、弁解するしないの問題と弁解の場である懲罰委員会への出頭の問題は別個の問題であつて、弁解をするしないの自由があるからといつて、懲罰委員会に出頭する義務がないということにはならず、しかも、懲罰委員会は単に弁解の機会を与える場だけではなく、事実の調査をする機関でもあるのであつて、控訴人の主張は理由がないことは明らかである。

なお、控訴人は、本件処分以前からも懲罰委員会への出頭を拒否し続けているのに本件処分に限り、右出頭拒否を懲罰理由とすることは許されない旨主張するところ、懲罰に相当する事由がある場合であつても懲罰に付するか否かは刑務所長の裁量に属するものであり、仮に同じ行為を以前懲罰事由としなかつたとしても、その後右懲罰委員会への出頭拒否を懲罰事由にすることは、それが懲罰事由となるべきものである以上、これをもつて違法・不当ということはできない。また、控訴人は、控訴人が昭和五二年七月八日にも取調べを拒否したのに、これが懲罰事由とされていない旨主張するところ、右についても、右懲罰委員会への出頭拒否と同様であつて、それが懲罰事由となるべきものである以上、今回懲罰事由としたからといつて、これをもつて違法・不当ということはできない。

(三)  懲罰及び解罰言渡しのための出頭拒否について

<証拠略>によれば、請求原因2の(一)の(1)の(ウ)、同(二)の(1)の(イ)、同(三)の(1)の(ウ)、(カ)及び同(四)の(1)の(イ)、(エ)の事実を認めることができ、右認定を左右する証拠はない。

<証拠略>によれば、沖縄刑務所においては、懲罰及び解罰の言渡しは、居房以外の部屋で行われる例になつていたことが認められ、これに反する証拠はない。

ところで、監獄の長は規律を維持するため合理的な限度において被収容者に対して一定の作為、不作為を指示することができ、それに違反すれば、右規律維持の見地から相当な処罰ができることは前記のとおりであり、懲罰及び解罰の言渡しは、懲罰権の始期及び終期を明確にするために必要不可欠な行為であり、懲罰の効果を高めるためにも、また、懲罰を受ける被収容者の名誉等のためにも、居房以外の場所で行うことが相当であり、被収容者に右各言渡しのための出頭義務を課したからといつて、同人の人権を侵害したことにはならないといわなければならない。

なお、控訴人は、本件処分以前からも、また本件処分後も懲罰及び解罰言渡しのための出頭を拒否し続けているのに、本件処分に限り、右出頭拒否が懲罰事由となつている旨主張するところ、懲罰に相当する事由がある場合であつても懲罰に付するか否かは監獄の長の裁量に属するものであり、仮に同じ行為を以前又は以後に懲罰事由とせず、本件処分時に限り懲罰事由にしたからといつて、これが違法又は不当となるものではないというべきである。

(四)  懲罰及び解罰診断拒否について

請求原因2の(一)の(1)の(エ)及び(オ)、同(二)の(1)の(ウ)、同(三)の(1)の(エ)及び(カ)並びに同(四)の(1)の(ウ)及び(オ)の各懲罰診断及び解罰診断拒否の事実は控訴人において明らかに争わないところである。

ところで、規則一六〇条二項、一六三条によれば、軽屏禁罰の執行の前後に被懲罰者を診断すべき旨を定めており、これが受罰者の健康の維持、確保のためになされるべきものであることはいうまでもなく、沖縄刑務所長は、懲罰診断及び解罰診断を為すべき義務があり、反面被懲罰者である控訴人もこれに応ずる義務があるものといわなければならない。

この点、控訴人は、規則一六〇条二項、一六三条は受罰者の保護規定であつて、受罰者又は解罰者が診断を拒否したことによつて新たな懲罰を受けるとなると医師による診断を欠いた際限のない懲罰の連続執行となり、法の目的を逸脱する旨主張するが、規則一六〇条二項及び同一六三条は、規則一六一条とともに、懲罰を執行する監獄の長に受罰者の健康保持義務を課したものであり、受罰者がその意思により放棄できる性質のものではなく、監獄の長は右義務を遂行するために受罰者又は解罰者に診断に応じる義務を課すことができるものといわなければならず、診断を拒否すれば懲罰の執行ができない結果となりうるような法の解釈は容認できない。

控訴人は、診断拒否にもかかわらず医師の診断なしに懲罰を執行された旨主張し、<証拠略>によれば、控訴人の沖縄刑務所における診療録には、本件処分の懲罰診断及び解罰診断に関する記載のないことが認められるが、<証拠略>によれば、控訴人は、沖縄刑務所における軽屏禁罰につき、当初のころは懲罰診断及び解罰診断を受けていたものの、右診療録には右旨の記載はないことが認められ、<証拠略>に懲罰診断及び解罰診断に関する記載のないことから、本件処分につき懲罰診断及び解罰診断がなされなかつたとはいえず、かえつて、<証拠略>によれば、本件処分の執行はいずれも医師が執行に耐えられると判断した結果執行されたものであり、右判断は、医師が準看護婦と同様の資格を有する看護士又は看守から、控訴人の心身の状況に関する報告を聴取し、また、それまでの医師自身の巡回の結果を参考に、直接診断しなくても懲罰の執行に十分耐えられると判断してなされたものであること、沖縄刑務所においては、看護士が被収容者の健康管理のために同刑務所内を毎日巡回しており、医師も懲罰執行中巡回し、懲罰の執行を受けている者の健康状態を外観診断していたことが認められ、これに反する<証拠略>は措信し難い。

(五)  暴言及び侮辱について

<証拠略>によれば、控訴人が沖縄刑務所職員に対し請求原因2の(三)の(1)の(イ)及び同(四)の(1)の(キ)、(ク)記載の発言及び行為をしたことが認められ、これに反する<証拠略>は措信し難い。

右認定の事実によれば、請求原因2の(三)の(1)の(イ)及び同(四)の(1)の(ク)記載の控訴人の言動は暴言に、同(四)の(1)の(キ)記載の言動は侮辱に当たることは明らかである。

ところで、沖縄刑務所のような監獄がその設置目的を達成するためには、施設内における安全と秩序が維持されることが必要不可欠である。

そして、被収容者が監獄の職員に対し暴言をはき、あるいは侮辱を加えることは、比較的少数の職員で多数の被収容者を処遇しなければならない監獄の秩序維持に大きな影響を与えるものであり、また、暴言をはいたり、人を侮辱してはならないことは人間社会における基本的義務であつて、右義務に違反した者が監獄内の規律及び秩序を害したものとして処罰されることは当然である。

(六)  上半身着衣拒否について

請求原因2の(三)の(1)の(オ)、同(四)の(1)の(カ)各記載の上半身着衣拒否の事実は当事者間に争いがない。

軽屏禁罰執行中の上半身裸体禁止の処遇に違法不当な点がないことは後述のとおりであり、控訴人の右上半身着衣拒否を懲罰事由としたことに違法な点はない。

(七)  指示違反について

<証拠略>によれば、控訴人は沖縄刑務所職員であつた中里武政の指示に反し、請求原因2の(四)の(1)の(ケ)記載の行為をしたことが認められ、これに反する証拠はない。

比較的少数の職員で多数の被収容者を処遇しなければならない刑事施設にあつて、起床及び就寝時間が定められることは、右施設の秩序維持のうえからは当然であり、右に従うよう指示できることはいうまでもなく、控訴人の右指示違反の行為は懲罰理由となるものといわなければならない。

四  裁量権逸脱の主張について

控訴人は、本件処分は裁量権を逸脱した処分である旨主張するので、以下判断する。

1  法五九条、六〇条は、監獄内の規律違反について、各種の懲罰を科すことができる旨規定している。懲罰の目的が、専ら監獄内の安全と秩序維持にあることに鑑みると、懲罰権の行使については、原則として、監獄内の安全と秩序維持に責任を負い、かつ、監獄内の実情に通じている監獄の長の合理的かつ合目的な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。

したがつて、法令の定める範囲内にある限りは、懲罰の対象となつた事実の判断に誤りがある場合、あるいはその懲罰が著しく不相当であつて明らかに裁量の範囲を逸脱していない限り、懲罰権の行使は違法とならないものといわなければならない。

2  本件処分につき、懲罰事由とされた事実の全てが認められ、いずれも懲罰権の対象となることは前記認定のとおりである。

3  そこで、本件懲罰が著しく不相当で明らかに裁量の範囲を逸脱しているか否かにつき、判断する。

<証拠略>によれば、本件処分当時の沖縄刑務所長であつた長谷川永は、控訴人が獄中闘争の手段として点検拒否を行い、拒否の理由が点検制度そのものを否定するというものであり、しかもその拒否の内容と拒否の期間が継続した長期のものであることから、本件処分事由のうち点検拒否を中心的なものとして、点検拒否の態様・程度に、控訴人の本件処分前の規律違反行為の内容・程度、懲罰の種類・程度等を考慮し、本件処分を決定したものであることが認められ、右に反する証拠はない。

そこで、沖縄刑務所長であつた長谷川永が本件処分を決定するにあたつて考慮した事実の有無、その相当性につき検討するに、<証拠略>によれば、控訴人は、請求原因に対する認否及び被告(被控訴人)の主張2の(三)の(1)の(イ)記載の行為により、同記載の懲罰を受けていたこと、右規律違反行為のうち、点検拒否は、国家権力の打倒を使命と考えていた控訴人が、沖縄刑務所に入所後は同刑務所の点検制度そのものを否定する態度に終始し、獄中闘争の一つとして点検拒否を行つてきたものであり、その他の懲罰事由は右点検拒否から派生して発生した規律違反行為であることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右によれば、控訴人は、点検制度そのものを否定して、獄中闘争の一つとして点検拒否を行つてきたものであり、その余の規律違反行為は右点検拒否から派生して発生したものであること、控訴人は、沖縄刑務所在監中の昭和五一年一月一六日から昭和五二年五月二五日までの間、断続的に点検拒否、拒食等の規律違反を繰り返していたが、同年六月二一日以降は一貫して点検を拒否し、その間懲罰委員会出頭拒否、懲罰・解罰言渡しのための出頭拒否、懲罰・解罰の際の診断拒否、取調べのための出房、取調べ拒否、暴言・侮辱、上半身着衣拒否、指示違反などの各種規律違反を断続的に繰り返していたこと、そのため昭和五一年一月三〇日以降本件処分にいたる昭和五二年一二月二〇日までの間合計一四回の懲罰を受けたこと、右懲罰は、叱責、軽屏禁罰に文禁罰の併科七日、同一〇日、軽屏禁罰一五日、軽屏禁罰に文禁罰の併科一五日三回、叱責、軽屏禁罰に文禁罰の併科一〇日、同二〇日、同二五日、同三〇日二回、同五〇日の順であつたことが認められる。

以上認定の事実によれば、沖縄刑務所長が本件処分をするに当たつて考慮した事情はすべて認められ、いずれも本件処分を決定するにおいて相当な事情であり、控訴人の規律違反の内容・程度、従前の懲罰回数とその内容を考慮すれば、いずれも軽屏禁罰に文禁罰の併科五〇日を課した本件処分が懲罰の種類の選択及び科罰日数の点で裁量権を逸脱したものとは認められない。

4  この点、控訴人は、本件処分は控訴人が違法な点検制度に対して正当な抗議をしたことに対する報復としてなされたものである旨主張するが、点検制度及び沖縄刑務所において控訴人に対してなされていた点検方法がいずれも適法であることは前記認定のとおりであり、本件全証拠によるも、本件処分が控訴人に対する報復としてなされたものとは認められない。

次に、控訴人は、本件処分は大正一三年二月行刑局長通牒行甲第一八五号に反し懲罰の種類の選択を誤つた旨主張するが、右通牒(<証拠略>)は「大様左記ノ程度ニ於テ処分セラルルヲ相当トス」との文言により明らかなように、一応の基準を示したにすぎず、未決勾留者であつても規律違反の程度・態様の如何によつては、より厳格な処分を選択することまでをも厳禁した趣旨ではないと解されるから、控訴人の右主張も理由がない。

5  また、控訴人は、軽屏禁罰に文禁罰が併科されていることにつき、未決勾留者は刑事訴訟法上訴訟当事者であつて訴訟のため準備を十分に行える権利が保障されなければならないところ、文禁罰は右権利を奪うものであつて、未決勾留者に文禁罰を課すことは違憲・違法である旨主張する。確かに、未決勾留者は刑事訴訟法上訴訟当事者であつて、その権利が保障されなければならないことはいうまでもないが、文禁罰は受罰者から文書等を読む自由を一時的に奪い、無聊に苦しむという精神的な苦痛を与えることによつて改悛を促すことを目的とするものであつて、軽屏禁罰の目的を補完する作用をもちうることは否定できず、軽屏禁罰に文禁罰を併科することが直ちに右権利侵害となるものではなく、監獄内の規律及び秩序維持の面から軽屏禁罰に文禁罰を併科することは監獄の長の裁量の範囲内にあるものということができる。したがつて、未決勾留者に文禁罰を課すことが直ちに違憲・違法となるものではなく、規律違反行為を犯した者に対し、規律及び秩序維持の上から、軽屏禁罰の効果をより実行あらしめるために文禁罰を科すことは、適法であるといわなければならない。

控訴人は、訴訟関係の文書等は閲読禁止の対象にならず、一切の文書等の閲読を禁止する文禁罰は憲法三一条、三二条、三七条に違反する旨主張するところ、訴訟関係の文書といえどもその限定は不可能であり、処遇の均一・公平の面から、裁判関係文書を除くその余の文書の閲読を禁止する取扱いは、文禁罰の一部又は全部停止が有効に機能し、未決勾留者としての地位を不当に害することのない取扱いがなされるならば、右をもつて違憲・違法であるということはできない。

<証拠略>によれば、沖縄刑務所においては、文禁罰中であつても訴状、呼出状等裁判関係文書は閲読禁止の対象とならないものとして扱われ、控訴人にも同様の処置がされていたこと、更に、訴訟上必要であれば懲罰者の個別の要求により、文禁罰の一部又は全部停止の方法により、未決勾留者の訴訟上の地位を尊重する方法がとられ、控訴人についてもその要求により文禁罰の停止が行われ、本件処分の文禁罰二〇〇日のうち六日だけが執行されたにすぎないことが認められ、右認定の処置からすると文禁罰の執行に何ら違法な点はない。

更に、控訴人は、本件処分は、沖縄刑務所における科罰基準(昭和五四年二月二一日付沖縄刑務所長達示第三号「科罰規定の制定について」)に照らし、不相当である旨主張する。<証拠略>によれば、沖縄刑務所においては控訴人主張の科罰基準が定められ、点検拒否は平均罰軽屏禁罰七日、最高罰軽屏禁罰二〇日とされていることが認められる。しかしながら、<証拠略>によれば、右科罰基準は、懲罰が公平に行われるように、当時沖縄刑務所長をしていた長谷川永が制定したものであつて、一応の基準を示したにすぎず、これに絶対的に拘束される性質のものではなく、また、右基準における点検拒否は、本件処分の対象行為のような、点検制度そのものを否定し長期にわたり継続した撤底的な点検拒否を行うという態様のものを予定したものではないこと、長谷川永は、控訴人の点検制度そのものに対する拒否の態度を重視し、その余の規律違反行為及び従前の規律違反の内容と懲罰の内容、回数等を考慮して本件処分を決定したものであることが認められ、右認定の事実によれば、控訴人の点検拒否の態様は右科罰基準が予定している態様のものではなく、その態様・程度、従前の規律違反の内容と懲罰の内容・回数等に照らせば、本件処分は、沖縄刑務所長の裁量の範囲内にあるものといわなければならない。

6  この点、控訴人は、本件処分が、従前の同種規律違反行為があつたことを理由に、科罰日数を次第に増加させていく累増科罰方式を採用してきた結果、軽屏禁罰五〇日というものになつたものであり、これは前の懲罰理由を後の懲罰理由とするものであつて罪刑法定主義及び一事不再理の理念に反するだけでなく、東京拘置所においては累増科罰方式を採用していないことから、東京拘置所との均衡がとれない旨主張する。しかしながら、従前同種の規律違反行為を犯して懲罰を科されたのに、今回も同種規律違反行為を犯した場合、その違法性が強いものとして従前の懲罰以上の懲罰を科すことが一事不再理の理念に反するものといえないことは明らかであり、また懲罰は各刑務所など刑事施設の規律及び秩序の状況等により、各別に決定さるべきものであつて、東京拘置所においては累増科罰方式を採用していないことから本件処分が違法となるものではない。

五  本件処分の執行内容が違憲・違法であるとの主張について

1  控訴人は、懲罰処分の執行内容が違憲・違法であり、本件処分は、右違憲・違法な執行を前提とするものであつて、本件処分自体も違法である旨主張するので、以下判断する。

(一)  戸外運動、房内体操、入浴の禁止について

控訴人は、戸外運動、房内体操、入浴が健康保持上必要なものであつて、これを禁止する軽屏禁罰の執行は違憲・違法である旨主張する。

沖縄刑務所において軽屏禁罰執行中は戸外運動、房内体操、入浴が原則として禁止されていたことは当事者間に争いがない。

ところで、法六〇条二項によれば、軽屏禁罰の内容は受罰者を罰室内に昼夜屏居させるものとしており、屏居とは罰室内から出さないことをいうものと解されるから、その性質上、室外に出ることを必要とする戸外運動及び入浴の禁止を伴うものと解するのが相当である。したがつて、軽屏禁罰執行中は規則一〇五条但書、一〇六条は適用されないものといわなければならない。

また、軽屏禁罰が受罰者を独居拘禁させることにより謹慎させ、精神的孤独の痛苦により改悛を促すことを目的とするものであることに照らすと、房内体操の禁止をもつて直ちに違法ということはできない。もとより、軽屏禁罰の執行といえども、受罰者の健康を害するものであつてはならないことはいうまでもなく、法も六二条一項により疾病その他特別の事由があるときは懲罰の執行を停止することができる旨規定し、更に、規則一六〇条二項、一六一条、一六三条において軽屏禁罰の執行前後及び執行中における健康診断を義務づけ、懲罰の執行中における受罰者の健康保持を規定している。右によれば、受罰者の健康保持については、各監獄の地理的環境や物的・人的状況、受罰者の健康状況などを勘案し、懲罰の趣旨を没却しない範囲内で、各監獄が個別にその処遇を決定できるものといわなければならない。

沖縄刑務所においては、戸外運動については軽屏禁罰執行中であつても、一五日を超えるごとに一回実施し、入浴については週二回実施する一般の入浴を基準に最初の二回の入浴該当日は湯で身体払拭をさせ、三回目からは入浴と身体払拭を交互に行わせていたことは、控訴人において明らかに争わず、<証拠略>によれば、右入浴以外に夏場は毎日夕食後水で濡らしたタオルを使つて身体払拭をさせていたことが認められ、これに反する証拠はない。そして、本件全証拠によるも、本件処分によつて控訴人の健康が特に害されたものとは認められない(なお、<証拠略>によれば、本件処分中控訴人が便秘であつた事実が認められるが、右便秘は本件処分前からあつたものであつて、運動制限を緩和すべき程度のものとは認められず、また、<証拠略>によれば、控訴人は昭和五三年二月から三月にかけて、眼痛を訴え、専門医の治療を受けたことがあるが、右眼病は軽屏禁罰の執行を停止する程度のものではなかつたことが認められ、前記結論を左右すべきものではない。)。

以上によれば、沖縄刑務所において、本件処分の執行中、原則として戸外運動、房内体操、入浴を禁止していたことが違憲・違法であるとはいえず、控訴人の主張は理由がない。

(二)  理髪、ひげそり、つめ切り禁止について

<証拠略>によれば、本件処分当時、沖縄刑務所においては軽屏禁罰執行中の未決勾留中の者については、理髪は衛生上必要があり、かつ本人の希望がある場合に、ひげそりは毎週金曜日に、つめ切りは本人の希望がある場合に金曜日に行うことになつていたこと、控訴人についてはひげそりは本件処分中毎週金曜日に行つていたこと、理髪、つめ切りについては沖縄刑務所職員において控訴人の希望を拒否したことはなく、控訴人が希望しない場合がほとんどであつたことが認められ、これに反する<証拠略>は措信し難い。

理髪、ひげそり、つめ切りに関する右に認定の運用は、法三六条但書に照らし、違憲・違法とはいえず、控訴人の主張は理由がない。

(三)  座布団の使用、夏期の上半身着衣・着脱の自由、身体の横臥について

本件処分中、控訴人が座布団の使用、夏期の上半身着衣・着脱の自由、身体の横臥(午睡)が禁止されたことは当事者間に争いがない。

軽屏禁罰が受罰者を独居拘禁させることにより謹慎させ、ひたすら反省悔悟の毎日を送らせることを目的とするものであり、その目的からその執行中それ相応の身だしなみが必要であり、また、懲罰に多少の苦痛を伴うことは当然であるといわなければならず、軽屏禁罰の執行内容として受罰者の健康保持に支障のない限り、他の被収容者に認められている安楽措置の一部を禁止し、その反省を促したことの故をもつて直ちに違法と解すべきものではない。

軽屏禁罰執行中の座布団の使用、夏期の上半身着衣・着脱の自由、身体の横臥(午睡)の禁止が控訴人に多少の苦痛を与えたことは否定出来ないものの、前記軽屏禁罰の趣旨、その禁止する行為の内容から判断すると、違憲・違法であるとはいえず、本件全証拠によるも、これが控訴人の健康保持に支障を及ぼしたものとは認められず、控訴人の主張は理由がない。

控訴人は、沖縄刑務所が昭和五三年の夏期から、それまで許可されていた処遇を変更して受罰者の上半身裸体を禁止したが、この処遇変更は合理的理由がなく、他の被収容者の処遇と比して不当な差別である旨主張する。

確かに、沖縄刑務所においては、昭和五二年までは、夏期(六月から一一月ころまで)処遇として受罰者を含め被収容者全員に上半身裸体を許可していたが、昭和五三年夏期から懲罰執行中の者については上半身裸体を禁止し、ランニングシヤツの着用を義務付けたことは当事者間に争いがない。

しかしながら、<証拠略>によれば、昭和五三年五月ころ舎房の食器孔の下の鉄扉を取り外して防虫網を取り付け、舎房廊下の東西の鉄扉のガラスを取り外して網戸にしたこと、同年六月ころ舎房廊下の窓の目隠しルーバーを三窓毎に上部のみ取り外すなどの通風の改善を図つたことが認められ、これに反する<証拠略>は措信し難い。

右に認定の事実によれば、上半身裸体を禁止しランニングシヤツの着用を義務付ける処遇の変更をした当時、舎房の通風改善が図られていたことからすると、右処遇の変更は合理的な理由があつたものといわなければならない。

以上によれば、本件処分中、控訴人に座布団の使用、夏期の上半身着衣・着脱の自由、身体の横臥(午睡)が禁止されたことを違憲・違法とはいえず、控訴人の主張は理由がない。

(四)  獄内面接禁止及び願箋紙の交付・筆述の制限について

控訴人は、本件処分中獄内面接及び願箋紙の交付・筆述が制限された旨主張するところ、<証拠略>によれば、控訴人は、沖縄刑務所に拘禁されてから、沖縄刑務所長、管理部長、保安課長に対して一般願箋を使用して面接を求めあるいは種々の要請をしてきたこと、本件処分中においても同様の方法により六回にわたり刑務所長らとの面接を受けていることが認められ、<証拠略>は措信し難く、控訴人の主張は理由がない。

(五)  数珠の所持、使用の禁止について

控訴人は本件処分中数珠の所持、使用が禁止されていた旨主張するところ、<証拠略>によれば、本件処分中、控訴人は数珠の所持、使用が許されていたことが認められ、これに反する<証拠略>は措信し難く、控訴人の主張は理由がない。

(六)  一般人面接、信書発受、ラジオ聴取の禁止について

本件処分中、控訴人について一般人面接、信書発受、ラジオ聴取が禁止されていたことは当事者間に争いがない。

軽屏禁罰が受罰者を独居拘禁させることにより謹慎させ、精神的孤独の痛苦により改悛を促す目的を有するものであり、罰室外に出ることを必要とする一般人面接が原則として禁止されることは当然であり、また、その目的からして、信書の発受、ラジオの聴取が原則として禁止されたとしても直ちに違憲・違法となるものではないといわなければならない。

もとより、未決勾留者は、その防禦権が最大限尊重されるべきであることは当然であり、一般人の面接及び一般人との信書発受であつても、右防禦権尊重の趣旨から、その内容及び趣旨によつては、軽屏禁罰の一部停止などにより、右禁止の一部解除をはかる必要があるところ、<証拠略>によれば、本件処分中にも、控訴人の訴訟に関する事柄につき、一般人との面接及び一般人との信書の発受が許可されていることが認められ、不許可とされたものについても、それが本件全証拠によるも控訴人の防禦権を不当に侵害したとは認められず、これに反する<証拠略>は措信し難く、右に認定の事実によれば、沖縄刑務所における前記運用に違憲・違法な点はなく、控訴人の主張は理由がない。

2  控訴人は、本件処分が昭和五三年二月二二日から同年一二月一日までの二八三日の期間中に合計二〇〇日にも及ぶものであり、総体としてとらえた場合、その期間の長期性及びその執行内容からみて、個人の尊厳を否定するものであり、憲法一三条ひいては憲法秩序全体に違反する旨主張するところ、控訴人が昭和五三年二月二二日から同年一二月一日までの二八三日の期間中に合計二〇〇日に及ぶ本件処分の執行を受けたことは当事者間に争いがない。

しかしながら、控訴人が昭和五三年二月二二日から同年一二月一日までの間に合計二〇〇日の軽屏禁罰の執行を受けたのは、控訴人が前記点検拒否を中心とする規律違反行為を繰り返していたからであり、<証拠略>によれば、沖縄刑務所においては、軽屏禁罰の執行は、受罰者の健康などを考慮して、前の軽屏禁罰の執行から少なくとも一か月は間隔をあけるように配慮していたことが認められ、また、本件処分の各軽屏禁罰の執行がいずれも違憲・違法でないことは前記認定のとおりであつて、二八三日の期間中に合計二〇〇日に及ぶ本件処分の執行を受けたからといつて、それが総体として、憲法一三条ひいては憲法秩序全体に違反するとはいえず、控訴人の主張は理由がない。

六  結論

以上によれば、本件処分が違法である旨の控訴人の主張はいずれも理由がなく、その余の点につき判断するまでもなく、本訴請求は棄却を免れず、これと結論を同じくする原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 友納治夫 榎下義康 横山秀憲)

【参考】第一審(長崎地裁 昭和五六年(ワ)第七六号 昭和五九年八月二九日判決)

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一 請求の趣旨

1 被告は原告に対し金二〇〇万円及びこれに対する昭和五六年四月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二 請求の趣旨に対する答弁

1 主文第一、二項と同旨

2 担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一 請求原因

1 原告は、昭和五〇年七月、爆発物取締罰則違反などで起訴され、同年九月四日から昭和五三年一一月六日までは未決勾留として、「刑」確定後の同月七日から昭和五四年三月一四日までは刑の執行として沖縄刑務所に拘禁されていた者である。

2 沖縄刑務所長長谷川永は、原告に対し、次のとおり、懲罰処分(以下本件処分という。)をなした。

(一) 昭和五三年二月二二日言渡しの軽屏禁罰・文書図画閲読禁止罰(以下文禁罰という。)の併科五〇日

(1) 処分理由

(ア) 原告は文禁罰執行中に六法全書を閲読させないことは弁護防禦権を侵害するものであるから、それに抗議し、同時に奴隷的屈従を与えて監獄権力支配の中で強制する点検制度は須らく廃止すべきであるとして、昭和五二年一二月一〇日朝点検から昭和五三年二月一七日夕点検まで、職員の注意、指示を黙視、黙殺して点検を拒否した。

(イ) 昭和五二年一二月一九日午後一時五〇分ころ、原告の居房南三舎四房を開扉し副看守長井上安雄が看守部長久場里重立会のうえ、懲罰委員会へ連行するため原告に出房を指示したが、「懲罰粉砕、出席拒否。」と言つて、職員の職務上の指示に従わなかつた。

(ウ) 同月二〇日午後一時五五分ころ、井上副看守長が「懲罰言渡しだから出席せよ。出房せよ。」と指示したが、「用があつたら来い。」と言つて、職員の職務上の指示に従わなかつた。

(エ) 同月二一日午前一〇時二〇分ころ、井上副看守長が「懲罰前の健康診断だから出房せよ。」と指示したが、「行かん。」と言つて、職員の職務上の指示に従わなかつた。

(オ) 昭和五三年二月一四日午前九時五〇分ころ、南三舎四房を開扉し、久場看守部長が平良看守立会のうえ、解罰診断のため原告に出房を指示したが、「やらなくてよい。」と言つて、職員の職務上の指示に従わなかつた。

(2) 執行状況

同月二二日から同年四月一三日まで軽屏禁罰執行。

(二) 同年五月一一日言渡しの軽屏禁罰・文禁罰の併科五〇日

(1) 処分理由

(ア) 原告は、同年二月一八日朝点検から同年四月一二日夕点検まで、職員の注意、指示を黙視、黙殺して、点検を拒否した。

(イ) 同月一三日午前九時ころ、久場看守部長が解罰言渡しのため出房を指示したところ、「私の方では何の用もない。そちらで用があるなら来なさい。言渡しのため行くのは時間の浪費」などの言辞を弄して出房を拒否し、職員の職務上の指示に従わなかつた。

(ウ) 同日午前一〇時二〇分ころ、伊志嶺副看守長が解罰診断のため出房を指示したところ、「解罰診断は、懲罰のあかし、証明にすぎない。」などの言辞を弄し出房を拒否し、職員の職務上の指示に従わなかつた。

(エ) 同月一四日午前九時ころ、伊志嶺副看守長が、前記(ア)、(イ)、(ウ)の事犯取調べのため出房を指示したところ、「忙しい。久場看守部長に聞け。」などの言辞を弄し、職員の職務上の指示に従わなかった。

(2) 執行状況

同年五月一一日から同年六月二九日まで軽屏禁罰執行。同月一六日から同月二〇日まで文禁罰執行。

(三) 同年七月二六日言渡しの軽屏禁罰・文禁罰の併科五〇日

(1) 処分理由

(ア) 原告は、同年四月一三日から同年七月二〇日までの間、南四舎四房において獄中者に奴隷的屈辱対応を強制する点検制度は、憲法並びに刑事訴訟規則六八条に違反するとして職員の注意、指示を黙視、黙殺して、朝夕の点検を拒否した。

(イ) 同年四月一八日午後一時三〇分ころ、伊志嶺副看守長が、南四舎四房前廊下に居房捜検のため出房せしめ捜検終了まで空房へ入房するよう指示したところ、「何か持つて行かれては困る。」などと述べて入房を拒絶し、更に房入口窓際に立つて「おい勝手にかきまわすな。」などの言辞をなしたので、再度注意したところ、「何を言うか。馬鹿野郎、ぼさつと立つている者は房から出ろ、人の財産をかきまわすな。」などと捜検実施中の看守与儀清栄ほか四名の職員に対して暴言を吐いた。

(ウ) 同年五月一一日午前一〇時二〇分ころ、同副看守長が、懲罰言渡しのため保安事務所へ連行するため出房を促したところ、「何の用があるか、用のある者が来い、拒否だ。」など述べて出房を拒否し、職員の職務上の指示に従わなかつた。

(エ) 同月一一日午前一〇時四〇分ころ、同副看守長が懲罰診断のため出房を促したが、前記(ウ)同様に「用がある者が来い。」など述べて出房を拒否し、職員の職務上の指示に従わなかつた。

(オ) 同年六月六日から同月二九日の間夏期処遇の一部変更により、懲罰執行中の者が上半身裸体になることは許されなくなつたので、看守名嘉真他四名が、着衣を促し、再三注意指示したが、「受罰者とて暑いことには変りない。去年は許可して今年は許可しない理由は何か納得できない。処遇の後退だ。」など抗弁して上半身着衣を拒絶し、職員の職務上の指示に従わなかつた。

(カ) 同月三〇日午前九時一〇分頃、伊志嶺副看守長が、解罰言渡し並びに解罰診断のため出房を促したところ、「人間付き合いの仁義に反する。用事のある人が来い。診断を拒否する。」と抗弁して職員の職務上の指示に従わなかつた。

(キ) 同年七月三日午前一一時五分ころ、同副看守長他二名が、右(ア)から(カ)までの事犯取調べのため出房を指示したところ、「出房は拒否する。自分の房でやれ。机はかたづけない。」などの言辞を弄して出房及び取調べを拒否して、職員の職務上の指示に従わなかつた。

(2) 執行状況

同月二六日から同年九月一三日まで軽屏禁罰執行。

(四) 同年一〇月一三日言渡しの軽屏禁罰・文禁罰の併科五〇日

(1) 処分理由

(ア) 原告は、同年七月二一日から同年一〇月五日の間獄中者に奴隷的屈辱対応を強制する点検制度は、憲法並びに刑事訴訟規則六八条に違反するとして、職員の注意、指示を黙視、黙殺して、朝夕の点検を拒否した。

(イ) 同年七月二六日午前一〇時一〇分ころ、久場看守部長が懲罰言渡しのため保安事務所へ連行のため開房し出房を促したところ、「用があるならそちらで来なさい。いつものとおりだ。」など述べて出房を拒絶し、職員の職務上の指示に従わなかつた。

(ウ) 同日午前一〇時二〇分ころ、平良看守が、懲罰診断のため開房し出房を促したところ「拒否する。」と繰返し述べて出房を拒否し、職員の職務上の指示に従わなかつた。

(エ) 同年九月一四日午前九時三五分ころ、久場看守部長が、解罰言渡しのため開房し出房を促したところ「用事があるならそちらで来い。それが道理だろう。俺はお前達に用事はない。」などと言つて出房を拒否し、職員の職務上の指示に従わなかつた。

(オ) 同日午前一〇時一〇分ころ、与儀看守が、解罰診断のため開房し出房を促したところ「いいよ。」などと述べて出房を拒否し、職員の職務上の指示に従わなかつた。

(カ) 同年七月二六日から同年九月一三日までの間、夏期処遇の一部変更により、懲罰執行中の者が上半身裸になることは禁止されたので、名嘉真看守などが着衣を促し再三注意指示したが、「なぜ去年は許されて今年は駄目か。上司が変る度に規則も変るのか。受罰者とて暑いことに変りない。」などと抗弁し、職員の職務上の指示に従わなかつた。

(キ) 同月二六日午前九時一〇分ころ、伊志嶺副看守長が、原告の指示違反など取調べのため開房し出房を促したところ、「拒否する。ここでやれ、俺が許可する。房内の机は使用させない。」などと抗弁して出房及び取調べを拒否し、更に毛布カバーを帯状に丸めて腹部をしばるなどして挙動不審なところが見られたので、腹部の帯状のひもを取るよう指示したところ、「何をするか。」など述べて拒んだので、同副看守長が原告の手をのけて取りはずしたところ、「触るな。汚ない。ばいきんがつく。」などと暴言をなし、更に同副看守長が寝台の上に置いてあつたパンツ、Tシヤツ各一枚を調べるため手に取ろうとしたところ、「ばいきんがつく。」など述べてこれを拒み、自ら房内備付のほうきの柄で汚れたパンツ、Tシヤツの順にすくい上げ、同看守長の顔面近くでほれほれと連呼しながら上下させて愚弄し、もつて職員を侮辱した。

(ク) 同月二七日午前一一時四五分ころ、南四舎四房において、原告の願い出による人民新聞購入の件について、現物調査のため、原告が運動のため出房中、名嘉真看守が原告の新聞綴を調べたことに憤慨し、「何かなくなつたらどうする。泥捧猫じやないか。泥捧猫の真似はするなよ。」などと繰返し述べて暴言をなし、さらに同看守が説得のため事情説明したところ、これに激高し大声を発して「泥捧猫の真似はするなよ。」など暴言を吐いた。

(ケ) 同月三〇日午後一〇時一〇分ころ、南四舎四房において就寝すべき時間に起きて机に向い書きものをしていたので、仲里看守が寝るよう注意したところ、「そんなことは誰が決めたか、寝るか寝ないかは人の勝手だろう。」などと抗弁し、職員の職務上の指示に従わなかつた。

(コ) 同年一〇月五日午後一時ころ、伊志嶺副看守長が、原告にかかる指示違反など右(ア)から(ケ)までの事犯取調べを告知し開房して出房を促したところ、「また来たのか、自分は仕事がある。出房しない。」などの言辞を弄して出房及び取調べを拒否し、職員の職務上の指示に従わなかつた。

(2) 執行状況

同月一三日から同年一二月一日まで軽屏禁罰執行。

同年一一月一五日文禁罰執行。

なお残余の文禁罰については未執行のまま、沖縄刑務所長長谷川永が、昭和五四年三月一四日免除処分にした。

3 本件処分は、次のとおり、違法である。

(一) 処分理由の不存在

(1) 前記2の(一)ないし(四)の各(1)処分理由記載事実中、次の事実は存在しない。

(ア) 原告と看守との間での言辞部分。右は看守の創作である。

(イ) 前記2の(三)及び(四)の各(1)の事実中、原告が点検拒否理由として刑事訴訟規則違反をあげたこと。

(ウ) 前記2の(三)の(1)の(キ)、及び同(四)の(1)の(コ)の各事実中、原告が取調べを拒否したこと。

(エ) 前記2の(三)の(1)の(イ)、及び同(四)の(1)の(キ)、(ク)、(ケ)の各事実全部。

(2) 点検拒否

(ア) 沖縄刑務所においては、原告が収容されていた間、「所内生活の心得(未決収容者)」(昭和五二年沖縄刑務所達示三号)に従い、毎日午前七時四〇分(日曜、祝祭日は午前八時一〇分)及び午後五時の二回にわたり、被収容者に対する点検を行つていた。

点検は、原告の収容されていた南舎においては、被収容者は、〈1〉点検の号令がかかつたら服装を整え、正面とびらに向い房内の定位置に起立する、〈2〉点検の職員が前に来たら、頭を下げてから朝は「おはようございます。」、夕方は「こんばんは。」とあいさつをし、称号番号を言う、〈3〉点検終りの号令があるまで定位置で静かに起立している、という方法(以下本件点検方法という。)で行なわれていたが、原告は、沖縄刑務所職員から、右方法で点検を受けることを強制されていた。

(イ) そもそも原告の如き未決拘禁中の刑事被告人は、刑事裁判の審理の必要に基づき拘禁されているに過ぎないから、「無罪と推定され、かつ、それにふさわしく処遇されなければならない。」(西暦一九五五年犯罪予防および犯罪者処遇に関する第一回国連会議決議「被拘禁者処遇最低基準規則」(以下国連最低基準という。)八四条(2)項)のであり、「名誉その他人権の保護に留意して拘禁に依る不自由を能う限り緩和し」(昭和二一年一月四日司法次官通牒刑政甲第一号監獄法運用の基本方針に関する件第一)、もつてその「身体及び名誉」は保全される(刑訴規則六八条)立場にある。したがつて沖縄刑務所長その他の沖縄刑務所職員(以下所長を含めて沖縄刑務所職員ともいう。)は、拘禁目的に沿つた処遇確保が義務付けられている。

而して、監獄法上、刑事被告人に対し、本件点検方法の如くあいさつ、儀礼など隷従的態様を強いることを根拠付ける規定は存しないし、他に沖縄刑務所長において本件点検方法を内規として定める権限の存することを認めた規定、根拠もない。

また沖縄刑務所職員は拘禁中の刑事被告人の身体に責任を負つていることは否定できないので、職務上、その人員、身体を点検する必要があるとしても、それはあくまでも沖縄刑務所職員の義務であつて、原告の如き被収容者の義務ではないから、被収容者の人格を尊重した方法で行うべきである。現に沖縄刑務所においても、毎週土曜日の昼食後(午後〇時一五分ころ)点検職員は、「点検簿」を持つて、監房の視察用の窓から監房内を見て、被収容者の人員、身体の確認を行う方法で点検を行つていた。

而して沖縄刑務所において、この点検方法を続けていたことは、この点検方法で、点検の目的を達していたことを示すものであり、原告が収容されていた間、沖縄刑務所において本件点検方法による点検を行う必要はなかつた。

(ウ) 加えて、本件点検方法の真の目的は、被収容者の人員、身体の確認にあるのではなく、拘禁中の刑事被告人をして一日も早く監獄の管理支配に馴致するためにあり、目的においても不当かつ違法なものである。

(エ) 以上のとおり「所内生活の心得(未決収容者)」中の本件点検方法を定めた部分は、その根拠も必要もなく、目的も不当なもので、憲法一三条、一八条、一九条に違反する無効なものである。原告にはこのように違憲、無効な点検に応ずる義務はないから、原告が本件点検方法に応じなかつたことは正当である。

(3) 懲罰委員会出頭拒否

(ア) 懲罰委員会が「本人に弁解の機会を与える場」として、原告の言い分を聴取する為に設けられているのなら、弁解をする、しないは原告の自由であるから、原告は懲罰委員会に出頭する義務はないことになる。

(イ) また懲罰委員会は、沖縄刑務所職員の作つた「報告書」に基づいて懲罰を科す場となつており、沖縄刑務所当局自らが訴追、裁定、執行を兼ねている馴れ合いの場に審理の正当性はあり得ない。沖縄刑務所職員の立場、観点とその供述が正しく、被収容者の引き起した事態が悪いと予め予断と偏見をもつて臨んでいる懲罰委員会に公正、公平さは求めるべくもない。この様な懲罰委員会に原告が出頭する義務はない。

(ウ) 加えて、原告は本件処分の理由となつている各懲罰委員会への出頭拒否以前から、出頭拒否を続けてきており、本件処分以前においては一度も処分理由とはなつていない。本件処分に限り、懲罰委員会への出頭拒否を懲罰理由と為すことは許されない。

(4) 懲罰、解罰言渡しのための出頭拒否

原告は、本件処分以前の懲罰において、懲罰言渡し及び解罰言渡しのため出頭したことはない。即ち、懲罰言渡しにしろ、解罰言渡しにしろ沖縄刑務所職員は原告の監房の前に来て全ての手続きを済ませていた。また本件処分以前の懲罰及び本件処分後の懲罰においても、懲罰、解罰言渡しのための出頭拒否が懲罰理由となつたことはない。

(5) 懲罰、解罰診断拒否

原告には懲罰、解罰診断を受けなければならない義務はない。

即ち、沖縄刑務所長には、被収容者の健康を保持する義務がある(監獄法施行規則(以下単に規則という。)一六〇条乃至一六三条参照)が、被収容者の意思に反して医療行為を為す権限を定めた規定はないから、原告には、懲罰、解罰診断を拒否する自由がある。

沖縄刑務所長は、原告が、懲罰、解罰診断を拒否しても、何らの代替措置を採らず、そのまま懲罰を執行しており、沖縄刑務所長の懲罰権行使を阻害しておらず、懲罰制度の適正な運用が損われることもない。そもそも、沖縄刑務所長は、軽屏禁罰執行中原告に対し、執行中の診断(規則一六一条)及び出廷日の執行停止(規則一六二条一項)を行つたことはなく、自らいい加減な執行を行つている。

(6) 取調べのための出房及び取調拒否

(ア) 原告に非行事実があれば、沖縄刑務所長において、その真否、動機、企画、共犯の有無、行為の影響力などを的確に把握する必要があるとしても、事態を把握する必要があるのは沖縄刑務所長であつて、原告ではないから、原告には取調べに応じなければならない義務はない。

また、沖縄刑務所長は、原告の取調拒否に対して、何らの代替措置を採らなかつた。このことは、原告の取調拒否によつて、沖縄刑務所の秩序維持に何らの問題を生じさせなかつたことを意味している。加えて、原告は昭和五二年七月八日にも取調拒否をしているが、これは懲罰の理由とされていない。

(イ) 前記処分理由各記載の取調拒否について、原告は出房は拒否したが取調べは拒否していない(なお出房拒否については、指示をした伊志嶺看守長自らが取調べのため原告の監房内に入つたことにより、指示自体が取消されている。)。即ち、いずれにおいても、原告は同副看守長に原告の監房内で取調べを行う様に要求し、同副看守長はこれに応じて原告の監房内に入つて来たが、同副看守長が原告の机を使用しようとしたので、原告がこれを拒否したところ、同副看守長は一人で怒り出して、取調べをせずに引上げていつたものである。

(7) 暴言及び侮辱

(ア) ある言葉が暴言となるか否かは、相手方個人の相対的主観にまかせられ、客観的に証明し得るものではない。沖縄刑務所においては、看守の不合理な指示や不当行為を原告が糾弾し、対応看守の立場、都合が悪くなつた場合に、その内容と無関係に暴言とされるに過ぎない極めていい加減なものである。

(イ) さらに、暴言を吐いてはならないのは人間社会の基本的義務であるとしても沖縄刑務所においては、暴言を吐いた看守が懲戒処分にかけられた例はない。例えば、昭和五一年九月一九日、教保寿一副看守長が、原告に対し、「吹けば飛ぶような犯罪人のくせに」と暴言を吐いたが、原告の懲戒要求に対し、沖縄刑務所長は、同副看守長を懲戒処分に付するどころか、原告を訓戒処分にしている。この様に不公正、不公平な扱いが為されている以上、暴言を吐いたことは懲罰理由とはならない。

(8) 上半身着衣拒否

沖縄の夏は、高温、多湿で、他と同一に論じられない厳しいものである。そのため沖縄刑務所の被収容者は、夏期においては昼夜にわたり暑苦しさを強いられる。夏期においては上半身裸体となることは、この暑苦しさを少しでも取り除くあるいは緩和するための健康保持上の措置であつて、被収容者に何らの利益も与えるものではない。そのため沖縄刑務所においては、長年にわたり、夏期の被収容者の上半身裸体を許してきており、これは被収容者の既得権でもあつた。沖縄刑務所長には、従前の処遇を変更して、上半身裸体を禁止する合理的理由はない。

また、軽屏禁罰の目的には、被懲罰者に暑さで身体的苦しみを与えることは含まれていないから、全収容者に一律に上半身裸体を禁止しないで、被懲罰者のみに禁止するのは、不当且つ合理的理由のない差別であり、「虐待」に該る。

(なお監房の生活環境改善なるものが為されたのは、昭和五三年七月以降であるから、それ以前の前記2の(三)の(1)の(オ)記載の時点においては従前の処遇を変更する理由はなかつた。)

(二) 裁量権の逸脱

仮に懲罰事由が存するとしても、次のとおり本件処分には、懲罰に関する裁量権の逸脱がある。

(1) 報復としての懲罰

本件処分は、原告が、前記3の(一)の(2)記載のとおり違法な点検制度に対して、正当な抗議行為を為したことに対する報復として為されたものである。

即ち、後記(2)、(3)記載のとおり本件各処分は懲罰の種類の選択及び科罰日数に誤りがあり、加えて、沖縄刑務所長は原告の行為をある時は懲罰事由に加え、ある時は懲罰事由としないなど恣意的な懲罰を行つていること、原告の信書の発信を不許可にしたり、面会人があるのに原告に知らせず不許可にしたり、原告の訴訟関係文書を取上げるなど原告の訴訟活動を妨害したことなどから明らかである。

即ち、本件処分はその目的において違法である。

(2) 懲罰の種類の選択の誤り

未決勾留者に対する懲罰の種類については、

「大様左記の程度に於て処分せらるるを相当とす。

一 叱責

二 文書図画閲覧の一五日以内の禁止

三 請願作業の五日以内の停止

四 自弁に係る衣類寝具著用の一五日以内の停止」

と定められている(大正一三年二月行刑局長通牒行甲第一八五号)。

右通牒に加え、監獄法(以下単に法という。)六〇条一項に定める一二種類の懲罰の内、軽屏禁罰は、事実上最重罰であり、本件処分はこの軽屏禁罰に文禁罰を併科しているから、それに相応する事態に対するものでなければならない。即ち、沖縄刑務所の秩序が脅かされ、保安上の実害が生じた場合に限られる。しかしながら、本件処分の理由は、そのほとんどが原告の消極的な拒否行為であつて、沖縄刑務所の秩序を脅かしておらず、保安上の実害は生じていない。

本件処分において、沖縄刑務所長が軽屏禁罰と文禁罰の併科を選択したことは、懲罰の種類の選択の裁量権の逸脱があり違法である。

(3) 科罰日数の誤り

(ア) 科罰日数は、反則内容に相応したものでなければならない。昭和五四年二月二一日沖縄刑務所長達示第三号「科罰規定の制定について」(<証拠略>)によれば、軽屏禁罰五〇日の対象となつている犯則事犯は、殺傷、逃走、暴行、器物損壊など実害を伴う重大事犯に限られている。一方点検拒否については、平均罰軽屏禁罰七日、最高罰軽屏禁罰二〇日とされており、実務上軽罰の対象となつているうえ、前記(2)記載のとおり、本件処分の理由とされた原告の行為はいずれも実害の伴わないものであるから、沖縄刑務所長が本件処分においていずれも軽屏禁罰五〇日としたのは、科罰日数についての裁量権の逸脱があり違法である。

(イ) 原告が、点検拒否を始めたのは昭和五二年六月二一日からである。これに対して沖縄刑務所長は原告に対し、〈1〉同年七月二〇日に軽屏禁罰と文禁罰の併科二〇日間の、〈2〉同年八月二四日前同二五日間の、〈3〉同年九月二七日前同三〇日間の、〈4〉同年一一月八日前同三〇日間の、〈5〉同年一二月二〇日前同五〇日間の、〈6〉本件処分において前同五〇日間の懲罰を科している。

同様の行為に対し、その科罰日数を二倍乃至二・五倍に増加させていく「累増科罰方式」は、懲罰として甚しく不公平且つ合理的均衡を欠くものである。また「累増科罰方式」は、そもそも前の懲罰理由を後の懲罰の科罰理由とするものであるから「罪刑法定主義」及び「一事不再理」の理念に反する違憲、違法なものである。加えて東京拘置所においては、点検拒否について「累増科罰方式」を採つておらず、沖縄刑務所の「累増科罰方式」は、他の拘置所との均衡のとれない不合理なものである。本件処分における科罰日数五〇日は、科罰日数についての裁量権を逸脱した違法なものである。

(三) 軽屏禁罰執行内容の違法性

(1) 戸外運動、房内体操及び入浴禁止の違法性

本件処分当時、沖縄刑務所においては、被収容者に日曜、祝祭日、雨天日、入浴日を除く平日は各四〇分、土曜日は各二〇分の戸外運動を、日曜、祝祭日、雨天日の午前、午後の二回、各約七分の房内体操を、毎週火曜日、金曜日の二回、各一五分の入浴を実施していた。

沖縄刑務所長は、軽屏禁罰の内容として、本件処分の執行期間中右運動等を禁止した。

(ア) 法六〇条一項八号によれば、懲罰として「運動の五日以内の停止」が定められている。運動の禁止が懲罰として独立して設けられていること及び併科も可能(法六〇条三項)であることを考慮すると、軽屏禁罰の内容として運動を禁止することはできない。

仮に軽屏禁罰の内容として運動禁止ができるとしても、法六〇条一項八号により、六日以上の運動禁止は違法である。

(イ) また日曜、祝祭日及び雨天日にしか行わない、僅か七分間程の房内体操を行つたところで、軽屏禁罰中の被懲罰者が隔離されている状況には何の変化もない。罰室内では体を動かすことも当然に禁止されるとして房内体操を許さないのは、非人道的且つ屈辱的なものであつて違法である。

(ウ) 軽屏禁罰は、単なる身体屏居処分に過ぎず、被懲罰者の健康を奪う様な処遇は行い得ない。軽屏禁罰の執行内容として、被懲罰者の健康を保持する処遇である運動、入浴を禁止あるいは制限することはできない。

仮に運動、入浴を制限することができるとしても、被収容者の健康を保持することは沖縄刑務所当局の義務であるから、被懲罰者の健康を保持するに足る最低限度の処遇はいかなる場合においても保障されなければならない。

前記(ア)記載のとおり、六日以上の運動禁止はできない。

また入浴については、規則一〇五条によれば、「六月より九月までは五日毎に一回、一〇月より五月までは七日毎に一回を下ることを得ず」と定められているから、右基準を下回る入浴制限は違法である。

沖縄刑務所においては、運動は一五日を越えて一回、入浴は最初の二回の入浴日には身体の払拭、三回目からは入浴と身体払拭を交互に行うことを実施しているけれども、この程度では最低基準を満しておらず、違法である。

(2) 理髪、ひげそり、つめ切り禁止の違法性

本件処分当時、沖縄刑務所においては、被収容者に、理髪は概ね二〇日に一回の割合で、ひげそりは土曜、日曜、祝祭日を除き毎日、つめ切りは戸外運動時に戸外運動場で行わせていた。

沖縄刑務所長は、軽屏禁罰の内容として、本件処分の執行期間中理髪及びつめ切りを禁止し、ひげそりについては週一回の割合に制限した。

(ア) 沖縄刑務所長は、理髪、ひげそり、つめ切りの禁止、制限を、被懲罰者に不衛生、不潔感を与えて無用の苦しみを生じさせる目的で、軽屏禁罰の内容として付加している。軽屏禁罰は、被懲罰者を「屏居」せしめるものであり、「隔離」し、「遮断」し、「謹慎」させることでその目的は達せられるものであるから、理髪、ひげそり、つめ切りの禁止、制限は、軽屏禁罰の執行目的とは関係のない、不必要なもので、違法である。

(イ) また規則一〇三条二項によれば、理髪について、「調髪は概ね二〇日毎に一回……之を行はしむ可し」と具体的に最低限度を定めている。右規定には懲罰者を例外とはしていないから、本件処分において理髪を禁止することは違法である。

(3) 座布団の使用、夏期の上半身着衣着脱の自由、身体の横臥の禁止の違法性

本件処分当時、沖縄刑務所においては、被収容者に官物の座布団を貸与してその使用を許し、また夏期処遇として六月より一〇月までの間、日中監房内において上半身の着衣を脱いで裸体になることを許し、さらに平日は午後一時より午後二時まで、土曜、日曜、祝祭日は午後一時より午後三時まで横臥(午睡)することを許していた。

沖縄刑務所長は、軽屏禁罰の内容として、本件処分の執行期間中座布団の使用、右上半身の着衣着脱の自由及び横臥を禁止した。

(ア) 沖縄刑務所長は、座布団の使用、夏期の上半身着衣着脱の自由、身体の横臥等の禁止は、肉体的苦痛を与える目的で行つているから、軽屏禁罰の執行目的を逸脱しており、違法である。

(イ) 五〇日間も座布団の使用を禁じ、一日中ただ木の上に坐していることを強制するのは非人道的な奴隷的拘束であり、違法である。

(ウ) 沖縄刑務所は、その高温多湿な気候のため、夏期においては日中の監房内の温度が三〇度を超える。そのため従前から、沖縄刑務所においては懲罰の有無に拘らず、夏期の上半身裸体を許していた。ところが昭和五三年の夏期より突然被懲罰者の上半身裸体を禁止したが、この処遇変更は合理的理由のないものである。また他の被収容者の処遇と比して不当な差別でもあり、被懲罰者の身体を苦しめる「責苦」であつて違法である。

(4) 獄内面接禁止の違法性

本件処分当時、沖縄刑務所においては、被収容者は前もつてその要旨を願箋紙に書いて提出し、裁決の後、所長あるいは他の幹部職員と面接、面談できた。

沖縄刑務所長は軽屏禁罰の内容として、本件処分の執行期間中願箋紙の筆述及び獄内面接を禁止した。

(ア) 規則九条一項によれば、「所長は監獄の処置又は一身の事情に付き申立を為さんことを請う在監者に面接す可し」と定めている。沖縄刑務所長は、被収容者から申立があり、その理由がある場合には面接、面談に応じる義務がある。したがつて獄内面接を禁止することは違法である。

(イ) また法七条によれば、被収容者には情願権が認められている。ところで情願権は、当該所長の職務行為に対する不服申立としての意味をもつものであるから、被収容者が情願権を行使する前提として、当該刑務所長の最終判断を確認する必要がある。即ち情願権行使の前提として、当該刑務所長との面接が必要である。この点においても被収容者の獄内面接を禁止することは違法である。

(ウ) また獄内面接を求めるためには願箋紙にその旨を書いたうえこれを提出する必要があるが、沖縄刑務所長は、本件処分中、原告の要求にも拘らず願箋紙を交付せず、原告から獄内面接の機会を奪つており、違法である。

(5) 数珠の所持、使用の禁止の違法性

原告は、昭和五〇年一一月より、沖縄刑務所において、信仰用具として一連の数珠を所持、使用してきた。

沖縄刑務所長は、軽屏禁罰の内容として、本件処分の執行期間中原告より右数珠を取上げ、その使用を禁じた。

憲法二〇条一項は、「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。」と定める。したがつて私人の信仰の自由に対し、公権力の侵犯は許されない。原告の数珠の所持、使用を禁止したことは違法である(なお「身体の屏居」という軽屏禁罰の目的から言つても、信仰行為は、謹慎効果が期待できこそすれこれを禁止する理由はない。)。

(6) 一般人面会、信書発受、ラジオ聴取の禁止の違法性

本件処分当時、沖縄刑務所においては、被収容者は日曜、祝祭日を除き一日二回、一回三人まで、一五分乃至二〇分位の一般面会ができ、日曜、祝祭日を除き、信書の発信については一日二通まで、受信については制限なくでき、加えて平日は午前一〇時から午後九時まで、日曜、祝祭日は午前九時から午後九時までの間民間放送を、毎日午後六時ころ録音で検閲済のニュースを監房内のスピーカーで流し、ラジオ聴取させていた。

沖縄刑務所長は、軽屏禁罰の内容として、本件処分の執行期間中、右一般人面会、信書の発受及びラジオ聴取を禁止した。

(ア) 原告は、本件処分当時未決勾留中であり、その防禦権を行使するために「事実を知る権利」を保障される立場にあつた。したがつて、懲罰中とは言えども、沖縄刑務所長は、原告の一般人面会、信書の発受、ラジオ聴取を禁止して、知る権利を奪うことはできなかつたものである。

(イ) また信書の発受及びラジオ聴取は、原告が監房から出る必要のない行為であり、軽屏禁罰の目的とは無関係なものである。軽屏禁罰の内容として、信書の発受、ラジオ聴取を禁止することは違法である。

(四) 文禁罰の違法性

本件処分当時、沖縄刑務所においては、法三一条、規則八六条に基づき、被収容者に、図書、新聞紙、パンフレツト類の閲読、購入を許していた。さらに訴訟関係文書については、原則として監房内での所持を認めていた。

沖縄刑務所長は、文禁罰の内容として、昭和五三年六月一六日から同月二〇日まで及び同年一一月一五日、右閲読、購入、所持及び筆記を禁止した。

(1) 原告の如き未決勾留中の者は、裁判の必要上、身柄を拘禁されているに過ぎず、沖縄刑務所長は、高度に合理的な理由がある場合に、やむを得ない限度で、原告の図書閲読、購入、訴訟関係文書の所持及び筆記を禁止できるに過ぎない。本件文禁罰にはこの様な事情はないから違法である。

(2) また、本件文禁罰の執行は、原告の防禦権を侵害する違法なものである。

即ち、原告は同年二月一四日、本件勾留に係る刑事事件の上告を申立て、その後準備に入り、同年五月三一日上告趣意書を提出し、同年六月からは同補充書の作成に着手し、同年七月一二日これを提出した。

また、同年六月五日には、沖縄刑務所長を被告として懲罰処分取消し及び執行停止の行政訴訟を提起した。

本件文禁罰の執行は、原告の刑事裁判における防禦権の行使及び裁判を受ける権利を妨害するもので違法である。

4 本件処分は、国家公務員である沖縄刑務所長の為した違法な公権力の行使に該るから、被告は原告に対し、その被つた後記損害を賠償する責任がある。

5 原告は、違法な本件処分の執行により、身体的、精神的損害を被つたが、これを慰謝するには金二〇〇万円が相当である。

6 よつて原告は被告に対し、国家賠償法一条一項に基づき右慰謝料金二〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和五六年四月二五日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二 請求原因に対する認否及び被告の主張

1 請求原因1、2の各事実は認める。

2 同3について

(一) 同(一)の(1)は争う

(二) 同(一)の(2)の(ア)の事実は頭を下げてあいさつをするとの点を除き認める。沖縄刑務所においては、あいさつを強制しておらず、あいさつをしなかつたことにより処分を受けた被収容者は一人もいない。

同(イ)ないし(エ)の主張は争う。

(1) 「点検拒否」が懲罰の対象となりうる理由

(ア) 拘置所または刑務所における点検は、被収容者の人頭確認、個人職別及びその心身の状況を把握するための基本的義務で、法による拘禁の目的達成のため極めて重要な日課の一つである。その根拠については法などに直接の規定はないが、拘置所などにおいて拘禁管理の責任を有する者が拘禁の確実且つ円滑な実施のために、法の趣旨に基づき、且つ、全国的に確立した監獄の慣行に従い、細部の定めをしている(所内生活の心得(未決収容者)一二頁)。

(イ) 朝は、被収容者の異常の有無、当日の人員を確認し一日の日課の初めとして、夕方はその締括り、即ち、夕点検時には全居房の施錠を行つて、その後は所長の命令がなければ居房の扉はあけてはならない扱いとし、拘禁を確保するための措置として極めて厳粛に行つている。

原告の拘禁されていた沖縄刑務所拘置区南舎では、点検のときは、被収容者は正面に向い、定位置に起立し、点検係職員に対し称呼番号を言い、点検終了まで定位置で静かに待つよう指示している。そして、係職員も服装を正し、気合いのこもつた号令で被収容者と相対し、名簿(点検簿と称す)と本人を照合し、顔色、動静をみて居房内を視察し、異常がなければ扉を閉め施錠を確認する。

(ウ) その間、約三分程度であつて、被収容者にとつて甚しい苦痛を伴う如きものでもなく被収容者個人の尊厳を侵害するが如き屈辱的なものでなく、むしろ被収容者の健康と安全を確める個人尊重の意義も有するのである。

(エ) 号令による指示、規制は、拘置所の紀律を厳正に維持する場合において、少数の職員をもつて、老若男女はもとより心身障害者を含む多数の被収容者集団の日常生活万般を、秩序正しく且つ円滑に推移させるうえでは欠くことのできない手段であり、そのような方法により、著しい無理を伴わない程度で端正な姿勢と斉一性を強制することは、法令にいちいち定めがなくとも、被収容者全体の安全と秩序のために許容されるべきことであつて、何ら憲法一三条、一八条その他の法令に違反するものではない。

(2) 「懲罰診断拒否」が懲罰の対象となる理由

拘置所(拘置支所及び刑務所内の拘置区を含む)は、未決拘禁者を収容し、その法的地位に応じて防禦権を尊重しつつ逃走及び罪証湮滅を防止し、且つ施設の紀律維持を図つて刑事訴訟法の円滑な遂行に寄与することを目的とし、この目的を達成する為に、拘置所は、自ら拘置所内の紀律秩序を維持して安寧を確保すべき権限と義務を有し、この権限及び義務の遂行を確保するため懲罰権を与えられている(法五九条)が、他方においては、前記目的を達するため、被収容者の健康保持に努める権限と義務をも有しているところから、法及び規則は、収容者の健康を保持しつつ懲罰の実効性を確保するため、軽屏禁罰の執行に当つては、監獄医をして受罰者を診断させ、その健康に害がないと認めた場合でなければこれを執行し得ず(規則一六〇条二項)、懲罰の執行中および執行終了後も監獄医の健康診断を受診させなければならない(規則一六一条、一六三条)、と規定している。

右各規定の趣旨に照せば、被収容者にも前記各健康診断を受診する義務があり、正当な理由なくこれを拒否することは、懲罰制度の適正な運用を著しく損い若しくは損う惧れのある行為として、懲罰の対象となるものというべきである。

(3) 「出房拒否」、「取調べ拒否」、「暴言」が懲罰の対象となる理由

「職員の指示に従つて行動する義務」(「出房拒否」自体は、職員の指示に違反するものである)は、拘置所内での単独行動は原則として禁止されていることから、「非行事実についての取調べに応じなければならない義務」は、非行事実があれば、その真否、動機、企画、共犯者の有無、行為の影響力などを的確に把握する必要があることから、「職員並びに他の収容者に対して暴言を吐いてはならない義務」は人間社会の基本的な義務として、多数の刑事被告人などを収容しつつ前記(2)記載の目的を達成すべく設置された拘置所の秩序、安寧を維持するために必要な紀律であつて、そこに収容されている者には当然に課せられる義務である。その違反行為が懲罰の対象となるのもまた当然のことである。

(4) 昭和五三年の夏より被懲罰者に「上半身着衣着脱の自由禁止」を加えた理由

現在の那覇拘置支所は、昭和五一年一一月二五日、旧沖縄刑務所拘置区として新築完成し、同年一二月四日から未決収容者の収容業務を開始したものであるが、それに伴い、当時、被告人として収容していた原告も新しい拘置区に移監されることとなつた。

そこで、旧施設未決区(一階平家建、CB造り、汲取式便所)の構造、生活環境から一転して近代的な高層、美麗なものに変つたことから、受罰者の処遇についても上半身裸体となることを禁じ、他の拘置所、刑務所と同様の取扱いをすることを考えたが、新しい拘置区は鉄筋コンクリート三階建ての庁舎棟と鉄筋コンクリート四階建ての収容棟が二棟あり、収容棟の各階の廊下外窓には防虫網に目隠し用ルーバーが取り付けられ、ルーバーの間隔が一五ミリメートルと極端に狭いうえに防虫網があるため風通しが悪く特に亜熱帯の沖縄では六月ころから一一月ころまでは高温、多湿の日が続き、夏季における右収容棟の各居房のみならず職員が常時勤務する各階廊下の生活環境及び勤務環境は極めて厳しい条件下にあり、また、前記ルーバーを取り外すことは容易にできなかつたので、已むを得ず受罰者にも従前どおり上半身裸体となることを許可していた。

しかしながら、昭和五三年の六月に至り、その窓のルーバーを窓の三ツ目ごとに取り外して防虫網のみとし、通気をよくして被収容者の生活環境を改善したので、昭和五三年の六月二日付け保安課長指示第二二号「処遇の一部変更について(夏季処遇)」では受罰者に対し上半身裸体を許可しないこととして、他の拘置所、刑務所の収容者との均衡を保ち、ランニングシヤツを着用させることとした。

懲罰執行中の者に対し上半身裸体を不許可とした理由は、紀律に違反した被収容者を独居房内に分離収容することによつて受罰者に対し紀律違反に対する反省を促すとともに規律の厳正さを自覚させ、懲罰をより効果あらしめるためである。

(三)(1) 同(二)の(1)の事実は否認する。沖縄刑務所長が本件処分を為した経緯は次のとおりである。

(ア) 原告は、昭和五〇年九月四日、「現在建造物等放火未遂・火炎びんの使用等に関する法律違反、爆発物取締罰則違反、傷害、非現住建造物等放火」事件(犯罪事実の概要――同年七月二三日、当時沖縄において開催中であつた国際海洋博覧会に参加中のチリ国海軍練習船エスメラルダ号外二隻の船舶に、点火した火炎ビンを投てきして発火炎上させ、右博覧会会場の公衆便所に手製の爆発物を装置して爆発させ、右便所を損壊した。)により、同年九月四日沖縄刑務所拘置区に収容されたいわゆる公安事件関係者であつたが、入所以来、国家権力を破壊することを標榜し、刑務所は国家権力の象徴であり、これを破壊することが、国家権力の破壊につながるものとして、対監獄闘争の一手段として、継続的に点検拒否を初めとする監獄の規則及び職員の指示、命令などに対し、常に反抗的態度をとり、紀律違反行為を繰返し、また前記刑事事件控訴審における判決言渡し期日の法廷において、証言台付近にかけより裁判長の名を挙げて罵倒し、口中に隠していた梅干の種一個を裁判長に投げつける暴行をなし、裁判長から退廷を命ぜられるや、証言台を足蹴りにするなどにより一五日間の監置処分に処せられたこともある者である。

(イ) 本件処分は、原告の前記非行事実、その動機、態様、改悛の程度及び左記処罰歴を考慮して決定されたものであつて、何ら刑務所長の恣意に基づくものではない。

〈1〉 昭和五一年一月三〇日叱責(およびその理由―以下同じ)

(a) 同月一七日国際海洋博覧会の開場式に臨席の皇太子殿下のことについて抗議する意図のもとに、同月一六日午前七時ごろ、職員が点検をとるため、原告に対して「番号」と言つたところ、「今日から皇太子来沖に反対しハンストをします。それでその間点検も拒否します。」と言つて番号を呼称することを拒否し、再度の指示にも従わず、その後同月一八日夕点検までその都度「スト貫徹中」と言うなどして点検を拒否し、

(b) 同月一六日朝食から同月一八日夕食まで拒食した。

〈2〉 同年三月一九日軽屏禁罰七日(文禁罰併科)

(a) 同月七日午前七時四五分ころ、点検をとるため、原告に対し「番号」と言つたところ、「今日からハンストにはいるから点検を受けない。」と答えて番号を呼称することを拒否し、指示に従わず、その後同月九日夕点検までその都度点検を受けることを拒否し、

(b) 更に同月七日朝食から同月九日夕食まで拒食した。

〈3〉 同年七月一五日軽屏禁罰一〇日(文禁罰併科)

(a) 沖縄与那城村CTS設置に反対するためのハンストを企図し、職員の注意に従わず同年六月一七日昼食から同月二〇日朝食までの九食、同月二二日昼食から同月二六日朝食までの一二食を拒否し、

(b) 同月二六日夕点検時から「点検を儀礼化して着衣強制させることは理不尽である。」として点検時の着衣を拒み、同年七月一三日まで点検時の着衣を拒否した。

〈4〉 同年八月一三日軽屏禁罰一五日

(a) 同年七月一五日指示違反により懲罰を執行されるや不当懲罰粉砕、不当管理規則粉砕のためとして、同日夕点検から同月二五日朝点検までの点検を拒否し、

(b) 同月一四日夕点検時から同年八月六日朝点検時までの間点検時の着衣(シヤツ着用)を拒否した。

〈5〉 同年九月一七日軽屏禁罰一五日(文禁罰併科)

(a) 同年八月七日夕点検から同月三一日夕点検まで、さらに同年九月七日の夕点検から同月九日朝点検までの間、無意味な規則には従えないと点検時の着衣を拒否し、

(b) 同月一日指示違反により文禁罰執行を言渡されたあと、同日から同月七日朝点検までの間、文禁罰だけを分離した懲罰は不当であり、防禦権をはく奪した処置は不当であるとして点検を拒否した。

〈6〉 同年一〇月八日軽屏禁罰一五日(文禁罰併科)

(a) 同年九月一〇日朝、夕の点検時、同月一二日朝点検から同月一七日の夕点検までの間、更に同年一〇月二日夕点検時、同月三日夕点検時、同月四日朝点検時の間懲罰中に六法全書を携帯させないことは不当であるとして、右点検時衣服の着用を拒否し、

(b) 同年九月一七日点検拒否などにより軽屏禁罰一五日の執行を言い渡されたあと、即日の夕点検から解罰を言い渡された同年一〇月二日の朝点検までの間、懲罰中に六法全書を携帯させないことは不当であるとして点検を拒否した。

〈7〉 同月二九日軽屏禁罰一五日(文禁罰併科)

(a) 同月五日朝点検から同月八日朝点検までの間、点検時衣服の着用を拒否し、

(b) 同月八日点検拒否などにより軽屏禁罰一五日の執行を言い渡されたあと、即日の夕点検から、解罰を言い渡された同月二三日までの間、点検を拒否した。

〈8〉 昭和五二年三月一五日叱責

(a) 同年二月二六日朝、夕点検を担当職員がとるたびに原告に対して「番号」と言つたところ、居房窓中央に、「点検拒否、拒食」と書いた紙片を無断ではりつけ、それを無言で指差し点検を拒否し、

(b) 同日の朝食から夕食までの三食を拒食した。

〈9〉 同年六月七日軽屏禁罰一〇日(文禁罰併科)

五、二五山口重光虐殺三忌、鈴木国男虐殺一忌を追悼し、大阪拘置所長を糾弾する意図のもとに点検拒否及びハンストを決行しようと決意し、同年五月一九日朝点検の際「五、二五山口重光虐殺三忌、鈴木国男氏虐殺一忌、殺人鬼大拘の居直りを糾弾す。五月一九日より大拘糾弾ハンスト並びに点検を拒否闘争に入る。」と記したはり紙を指差し、点検を拒否し、その後同月二五日まで点検を拒否した。

〈10〉 同年七月二〇日軽屏禁罰二〇日(文禁罰併科)

文禁罰中六法全書を閲読させないことは被告人の弁護、防禦権を侵害するものであるので点検を拒否するとして、同年六月三日夕点検から同年七月一二日までの間指示に従わず朝夕の点検を拒否した。

〈11〉 同年八月二四日軽屏禁罰二五日(文禁罰併科)

(a) 文禁罰中六法全書を閲読させないことは弁護、防禦権を侵害するもので、点検を拒否するとして、同年七月一三日朝点検から同年八月一一日夕点検までの間指示に従わず朝夕の点検を拒否し、

(b) 同月四日午後五時三五分ごろ、居房において、洗面所の水道の水を出して洗髪をなし、

(c) 同月一二日午前一〇時四〇分ころ、「点検拒否の件で取調べをするから出房せよ」と指示したが「拒否する。」と言つて指示に従わず再度指示すると「拒否すると言つただろう。」と言つて従おうとせず、「可故出ない、理由は何か。」と質すと「おれの権利だ。」と抗弁して出房を拒否し、「何が権利か。出らんという権利はない。おれの方が出す権利があるのだ。お前が出らんというのは勝手というものだ。権利と勝手をはき違えるな。強制的に引つ張り出すぞ。」と出房を指示したところ「出せるなら出してみろ。そんな大声を出さんでもよいだろう。」と抗弁し、出房並びに取調べを拒否した。

〈12〉 同年九月二七日軽屏禁罰三〇日(文禁罰併科)

(a) 文禁罰中の六法全書を閲読させないことは防禦権の侵害であり点検を拒否するとして、同月一二日朝点検から同年九月一〇日夕点検までの間点検を拒否し、

(b) 同月二〇日午後三時三〇分ころ解罰診断を受けるよう指示したが「診断を拒否する。」と申し述べ、理由を質したところ、「アリバイを作るためではないか。拒否する。」と執拗に繰り返えして指示に従わず、

(c) 同月二一日午後二時ころ、「点検拒否、診断拒否について取調べするから出房せよ。」と指示したが「拒否する。」と言つて指示に従わなかつた。

〈13〉 同年一一月八日軽屏禁罰三〇日(文禁罰併科)

(a) 文禁罰中、六法全書を閲続させないことは防禦権を侵害するもので点検を拒否するとして、同年九月一一日朝点検から同年一〇月一〇日夕点検までの間の点検を拒否し、

(b) 同年九月二九日午前一〇時ごろ「懲罰執行前の健康診断を受けよ。」と指示したが、従わないので理由を質したところ、「おれが理由を言うわけはないでしよう。」「理由は言わんでも分つているだろう。拒否していることで分るだろう。」と言つて指示に従わず、

(c) 同年一〇月二九日午前一〇時三〇分ころ「懲罰執行後の診断だから医務室に行つて診断を受けよ。」と指示するも従わなかつたので、連行しようとしたが廊下に座り込み、「診断をしましたというアリバイをつくるだけだろう、暴挙だ。拒否する。」と言つて診断を拒否し、

(d) 同年一一月一日午前八時四五分ころ「点検拒否、懲罰執行前並びに執行後の健康診断を拒否した事犯について取調べを行うから出房せよ。」と指示したが「拒否する。帰りなさい。」と言つて指示に従わなかつたので、「取調べて事実を明らかにしなければならない。君は事実関係も調べないなど言つているがどうして取調べに応じないのか。我々は法規に従つて忠実に職務を執行する義務がある。真相を究明するために取調べを受けよ。」と説示するも「あんたたちは一つ一つの区切りをつけて書類をつくり上司に出して片付けていけばそれでよいですよ。それで職務を果したことになるからどうでもよいですよ。取調べは拒否する。」と言つて取調べに応ぜず出房指示に従わなかつた。

〈14〉 同年一二月二〇日軽屏禁罰五〇日(文禁罰併科)

(a) 文禁罰執行中に六法全書を閲読させないことは防禦権を侵害するものであり、同時に奴隷化属従を与えて監獄権力支配の中で強制する点検制度は須らく廃止すべきであるとして、同年一〇月一一日朝点検から同年一二月九日夕点検までの間の点検を拒否し、

(b) 同年一一月九日午前一〇時二八分ころ、懲罰執行前の健康診断の出房指示に従わず、

(c) 同月二九日朝職員に「監獄法改悪策動粉砕、監獄法粉砕、監獄解体の獄内外統一闘争に呼応し合議して一一月二九日より拒食闘争を開始する。」旨記載した通告書を提出し、同日朝食から同年一二月六日夕食までの二四食を拒否し、

(d) 同月九日午前一〇時四〇分ころ解罰診断のため出房を指示したところ「その必要はない。」と言つて指示に従わず、

(e) 同月一二日午前九時四〇分ころ点検拒否、拒食、懲罰執行前及び執行後の診断拒否事犯取調べのため出房を指示したが、「拒否する。」と言つて指示に従わなかつた。

(2) 同(二)の(2)中、原告主張の通牒があることは認めるが、主張は争う。

即ち、本件処分が軽いものでないことは認めるが、懲罰権は、刑務所内における実害の発生を事前に防ぐべく系統的に設けられている紀律及び秩序の維持を担保するためのものであつて、その性質上、具体的な実害の発生を必要としていないというべきである。本件処分は、原告の非行事実、その動機、態様及び過去の前歴などに照応した相当のものである。

(3) 同(二)の(3)中、「科罰規定の制定について」の存在及びその内容並びに原告主張の懲罰の事実は認めるが、主張は争う。

原告が点検拒否を続け出したのは前記のとおり昭和五一年一月一六日からである。これに対して沖縄刑務所長は、同月三〇日叱責処分としている。

沖縄刑務所長が加重した懲罰を科したのは、原告において、点検拒否を長期間反覆継続し反省の念もなく、他にも種々の紀律違反を犯したため、これらを勘案して、その責任に応じて、加重量定したものである。

東京拘置所においては、未決収容者に対し、同種事犯の累行につき、原則として加重量定は行つていない。

しかしながら、刑務所の被収容者に対する懲罰権は、収容施設としての刑務所の内部紀律を維持し、収容目的を達成するために、施設の長である各刑務所長に認められた自律権であつて、被収容者の如何なる行為につき、如何なる懲罰を科するか、科するとしてどの程度加重するかは、刑務所内の事情に通暁し、直接刑務所内の秩序維持の衝に当る各刑務所長の裁量に任された事柄というべく、懲罰処分が、全く事実上の根拠に基づかないと認められる場合であるか、若しくは社会通念上著しく妥当を欠き懲罰権者に任された裁量権の範囲を超えるものと認められない限り、適法なものであつて、単に他の刑務所と懲罰基準が異なることの故を以つて直ちに違法となるものではない。

なお福岡矯正管区内では、一定期間内に同種の紀律違反を行つた場合、または二個以上の紀律違反がある場合は、懲罰を加重量定している。

(四)(1) 同(三)の(1)中、戸外運動、房内体操及び入浴の実施方法の事実は認める(但し入浴は週二回行つていたが、曜日は火曜及び金曜日と特定してはいなかつた。)。

(ア) 軽屏禁罰の内容は、受罰者を罰室(現在では罰室として特定された設備はなく、普通の独居房で懲罰の執行を行つている)内に昼夜屏居させることとされている(法六〇条二項)が、屏居とは、居房内に入れて房外に出さないことを意味する。したがつて、その性質上、当然に戸外運動及び入浴の禁止を伴うものと解される(横浜地判昭和四七年一二月二五日訟務月報一九巻二号三五頁)から仮に刑務所長が本人に対する軽屏禁罰の懲罰の執行期間中、規則一〇五条但書、一〇六条、さらには法六〇条一項八号の懲罰の併科によることなく、受罰者本人の健康保持に支障のない限り、戸外運動及び入浴を実施させなかつたとしても、それ自体、憲法一八条、二五条、三六条または法三八条若しくはその他の法令に違反するものではない。

また、房内体操も、厳格な隔離によつて謹慎させ精神的痛苦を与え改悛を促すという軽屏禁罰の目的から当然に禁止されるもので、軽屏禁罰執行中これを禁止しても前記憲法その他法令に違反するものではない。

(イ) しかしながら、懲罰に処せられている者の健康を害することは懲罰の目的でなく許されないことであるから、保健上必要があれば適当な措置を講じなければならないので、沖縄刑務所においては、大正一一年四月監丙第三五六号監獄局長通牒「屏禁執行ニ関スル件」及び昭和二八年九月二五日矯正甲第一〇八一号矯正局長通牒「屏禁罰の執行について」の趣旨に基づき、法三八条に定める健康を保つに必要な運動及びこれにかわる効果を持つ入浴の実施について、昭和五三年一月一七日付け達示第一号「軽屏禁罰執行中の収容者に対する運動及び入浴の実施について」をもつてその基準を

〈1〉 運動については、一五日を超えるごとに一回実施する。

〈2〉 入浴については、(週二回実施する一般入浴を基準として)最初の二回の入浴該当日は湯で身体払拭をさせ、三回目の入浴該当日は入浴させる。以後身体払拭と入浴を交互に行わせる。

と定めて、その通り実施している。

(2) 同(三)の(2)の事実は否認する。

理髪、ひげそりについては、清潔の保持と紀律維持上の斉一性の必要から、法三六条に規定が設けられているが、未決拘禁者については、有罪の判決があるまでは一応無罪の推定を受け、それに相応しい処遇がなされなければならないから、衛生上または医療上特に必要ある場合以外は、本人の意思に反してまでも強制をしてはならないことが同条但書に規定されている。

したがつて、強制できる受刑者の場合であれば、受罰中といえども定期的に理髪、ひげそりを行つており、その公平適正な処遇を行うために、沖縄刑務所では昭和五三年二月、昼夜独居拘禁受刑者処遇規程を作成し、福岡矯正管区長の承認を得て同年四月二四日付けで達示第五号をもつて施行した。その規程において受罰者の理髪は他と分離して個別に行い、ひげそりは居房内でさせることとしているが、未決拘禁者についても、希望があり、且つ、保健衛生上必要と認めたときには、受刑者の場合と同様の方法で実施している。

つめ切りについては理髪、ひげそりに準じて扱つている。

沖縄刑務所長において、原告の理髪、ひげそり、つめ切りの希望を拒否したことはない。

(3) 同(三)の(3)の柱書部分の事実は認める。

右禁止措置は、多少なりとも苦痛を伴うものであることは明らかであるが、軽屏禁罰が、受罰者を罰室に独居拘禁させ、ひたすら反省自戒の毎日を送らせることを目的とするものであるから、これを実効あらしめるため、前記禁止措置により、反省を促すことは、必要且つ合理的な措置であつて、懲罰の具体的執行にあたり、その効果的な運用を図るべく、刑務所長に委ねられている裁量の範囲内にあるもので、違法ではない。

(4) 同(三)の(4)の事実は否認する。

(5) 同(三)の(5)の事実は否認する。

但し軽屏禁罰に処されるとその効果として、日用品(洗面具など)を除いて、他の所持品を引上げ保管する(これは特定された罰室としての設備がないため普通の独居房を罰室と同一条件とするためである。)が、その後、願出により、必要と認めるものについて所持使用を認めており、原告についても、願出により数珠の所持、使用を許可していた。

(6) 同(三)の(6)の事実は認める。

軽屏禁罰は、受罰者を罰房に隔離することによつてひたすら反省悔悟の毎日を送らせることを目的とする懲罰であるから、その目的を達するため、その執行中一般人との面会、信書の発受、ラジオ聴取を禁止するのは当然のことである。

(五) 同(四)の柱書部分の事実は認める。

(1) 未決勾留者に対し文禁罰を科するのは憲法及び「未決勾留者に対する懲罰について」(大正一三年二月行刑局長通牒行甲一八五号)の定める基準に違反するとの主張は争う。

文禁罰は物を読む自由を奪い無聊に苦しむという消極的痛苦を与える処分であつて、厳格な隔離によつて謹慎させ精神的痛苦により改悛を促す軽屏禁罰に併科されることにより、軽屏禁罰を効果的なものにすることが期待されているものであるが、これも懲罰の目的を達成するため必要已むを得ないもので何ら違憲、違法を生ずるものではない。

また、原告指摘の大正一三年二月行刑局長通牒は、未決勾留者に対する懲罰についての一応の基本的基準を定めたものであり、確信に基づき常習的に紀律違反を繰返す者には直ちに適用はできないものである。

(2) 本件処分は刑事被告人たる原告の防禦権を侵害する違法があるとの原告の主張は、争う。

沖縄刑務所においては、被収容者から刑事被告人としての防禦権その他諸権利の行使のために懲罰の執行停止の願出と疎明がありその必要性が認められるときは、執行停止をなしている。

原告についてみるに、願出による上告趣意書、意見書などの訴訟関係書類作成のための必要性を認め、文禁罰執行停止中のところ、訴訟関係書類の提出も終了し、文禁罰執行停止の願出もないことから、昭和五三年六月一六日から同月二〇日まで文禁罰を執行した。

なお同月二一日から文禁罰の執行を停止したのは、原告から、意見書作成、行政処分執行停止の補充書、取消訴訟に基づく請求の追加併合の申立書の作成等の理由により文禁罰の執行停止の願出があつたためである。

右のとおり、沖縄刑務所長において、原告の防禦権、裁判を受ける権利を妨害したことはない。

また、刑事被告人である原告が軽屏禁罰及び文書図画閲読禁止処分を科せられることにより、それ以前の状態に比し防禦権の行使のための準備にあたつて若干の不便を感じるとしても、原告が監獄内の紀律に繰返し違反した以上、原告に対しある程度の精神的、肉体的苦痛を与えることにより原告の改悛を促すとともに一般予防の目的をも充足させ、もつて監獄内の秩序の維持をはかるため、監獄法に基づく懲罰が科せられることは当然であり、懲罰の執行を受けていない通常の収容者以上に自由の拘束を受けることは已むを得ないものというべきである。

3 同4、5の事実は否認する。

第三証拠 <略>

理由

一 請求原因1の事実及び同2記載の処分理由で本件処分が為され執行された事実は当事者間に争いがない。

二 点検拒否について

本件処分当時の沖縄刑務所における点検方法が、請求原因3の(一)の(2)の(ア)記載のとおり(但し頭を下げてあいさつをするとの点を除く)である事実は当事者間に争いがなく、請求原因2の(一)の(1)の(ア)、同(二)の(1)の(ア)、同(三)の(1)の(ア)及び同(四)の(1)の(ア)記載のとおり、沖縄刑務所長の定める方法による点検を原告が拒否した事実は原告において明らかに争わないところである。

<証拠略>によれば、オリエンテーシヨンに際し、沖縄刑務所職員において原告に対し、点検の際にはあいさつをする様に述べた事実が認められる。もつとも<証拠略>中には、沖縄刑務所職員において原告に対し点検の際には頭を下げる様指示した旨の記載及び供述部分があるが、<証拠略>に照せば、これを認めることはできない。

ところで沖縄刑務所拘置区等の刑事施設は、刑の執行及び逃走、罪証湮滅等の防止目的のもとに多数の刑事被告人その他の者を収容する国の施設であるが、その目的を達成するためには、施設の長において被収容者の人員確認、個人識別を行い、併せて被収容者の心身の状況を把握して、逃走、自殺、自他傷などの刑務事故、紀律違反を防止するため、相当の方法により被収容者の点検を行う権限があるものと解するのが相当である。そして刑事施設においては比較的少数の職員で、多数の被収容者を処遇せざるを得ないことに照せば、点検目的を簡易迅速に達成し、且つ点検時の事故防止を図るため、点検方法を定めるについては、刑事施設の長に裁量の余地があるものと解するのが相当である(もちろん被収容者の人権を侵害し得ないことは当然である。)。

沖縄刑務所における点検方法は前認定のとおりであるが、証人久場里重の証言によれば、点検の時間は約三分ないし五分であることが認められ、あいさつも単に朝は「おはようございます」、晩は「こんばんは」程度であることに鑑みると、相当なものと解するのが相当であり、沖縄刑務所長において、点検方法を定める裁量権を逸脱したものとは認められない。

なお本件全証拠によるも、沖縄刑務所長において違法な目的で前認定による点検を行つていたものとは認められない。また沖縄刑務所において前記朝夕の点検に加えて毎週土曜日の昼食後、より簡易な方法で点検を行つていたとしても、これをもつて前記朝夕の点検が不要となり又はその方法が違法となるものとも解されない。

三 懲罰委員会出頭拒否について

請求原因2の(一)の(イ)及び同(二)の(エ)記載の懲罰委員会出頭拒否の事実は原告において明らかに争わないところである。

法五九条、六〇条によれば、監獄内において紀律に違反した者に対し懲罰を科することができるのであるから、懲罰権者は紀律違反事由ありと思料する時は、事実の把握のため相当の方法により紀律違反事由の有無、程度などにつき調査できるものと解するのが相当であり、その調査のため紀律違反を犯したと思われる者に対し懲罰委員会への出頭を求めることは相当な方法と解される(なお紀律違反事由について、いわゆる黙秘権が認められるとしても、懲罰委員会の席上においてこれの行使が保障されれば足りるものと解すべきであるから、出頭を求めること自体を違法とする理由とは為し得ない。)。

四 懲罰、解罰言渡しのための出頭拒否について

<証拠略>によれば、請求原因2の(一)の(1)の(ウ)、同(二)の(1)の(イ)、同(三)の(1)の(ウ)、(カ)及び同(四)の(1)の(イ)、(エ)の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

ところで規則一五九条によれば、刑務所長は懲罰に際し、その言渡しを為すべきことが定められているが、右は在監者に対する不利益処分の存在を明確にすることになり在監者の権利保護のためにも必要なものと解され、沖縄刑務所長には、相当の方法により懲罰の言渡しを為すべき義務があり、被懲罰者である原告は、右懲罰言渡しに応ずる義務があるものというべく、そのための出頭拒否もまた懲罰理由になるものと解するのが相当である。なお懲罰に相当する事由がある場合でも懲罰に付するか否かは刑務所長の裁量に属するものであるから、仮に以前これを懲罰理由としなかつたことがあつたとしても、その後はこれを懲罰理由に為し得ないものと解することはできない。

一方解罰言渡しのための出頭拒否について考えてみるに、懲罰の執行が終了したことを明確にし、かつ論告などにより懲罰の効果をより高めるためにも有用であり、刑務所職員及び被懲罰者にとり好ましい措置であるが、前記規則一五九条に対応する規定はなく、規則一六三条の解罰診断並びに規則一六七条の刑期終了による釈放時の諭告の規定との対比からみて、解罰言渡しは法令上要求されておらず、被懲罰者は解罰言渡しに応ずる法上の義務まではないものと解するのが相当である。したがつて、請求原因2の(二)の(1)の(イ)、同(三)の(1)の(カ)及び同(四)の(1)の(エ)各記載の解罰言渡しのための出頭拒否の事実は懲罰理由とはなし得ないものというべきである。

五 懲罰、解罰診断拒否について

請求原因2の(一)の(1)の(エ)及び(オ)、同(二)の(1)の(ウ)、同(三)の(1)の(エ)及び(カ)並びに同(四)の(1)の(ウ)及び(オ)の各懲罰診断、解罰診断拒否の事実は原告において明らかに争わないところである。

ところで規則一六〇条二項、一六三条によれば、軽屏禁罰の執行の前後に被懲罰者を診断すべき旨を定めており、沖縄刑務所長には、懲罰診断、解罰診断を為すべき義務があり、反面被懲罰者である原告はこれに応ずる義務があるものと解される。したがつて前記の懲罰診断、解罰診断の拒否は懲罰理由になるものと解するのが相当である。

六 取調べのための出房及び取調拒否について

請求原因2の(三)の(1)の(キ)及び同(四)の(1)の(コ)各記載の事実中取調べのため出房指示違反の部分は当事者間に争いがない。

ところで前記三記載のとおり、沖縄刑務所長は紀律違反について取調べを為すことができるものというべきであるから、その補助職である沖縄刑務所職員も相当の方法により取調べを為すことができるものと解され、原告は右取調べのための前同職員の出房指示に従う義務があるものと解するのが相当である。したがつて前記の出房指示違反は懲罰理由になるものと解される。なお出房指示の直後に、当該職員が取調べのために監房内に入室したとしても、直前の出房指示違反の事実がなくなるわけではなく、また本件全証拠によるも請求原因2の(三)の(1)の(キ)及び同(四)の(1)の(キ)各記載の出房指示が取消されたものとは認められない。

しかしながら憲法三八条一項の趣旨に照せば、紀律違反を犯したと疑われている者は、取調べの場に出頭する義務は認められるとしても、刑務所職員による取調質問に応ずるまでの義務はないものというべきであるから、請求原因2の(三)の(1)の(キ)及び同(四)の(1)の(コ)各記載の取調拒否が、出房拒否により結局取調べの場への出頭を拒否したことをさすのであれば懲罰理由に該当するが、取調質問に対する供述の拒否を意味するならばこれをもつて懲罰理由となし得ないことは勿論、供述拒否の事実を認めるに足りる証拠もない。

七 暴言及び侮辱について

<証拠略>によれば請求原因2の(三)の(1)の(イ)及び同(四)の(1)の(ク)各記載の暴言並びに同(四)の(1)の(キ)記載の暴言及び侮辱の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

ところで沖縄刑務所拘置区の如き刑事施設は前記二記載の設置目的を達成するためには、施設内における安全と秩序を維持することが必要不可欠である。

而して被収容者が施設の職員に対し暴言をはきあるいは侮辱を加えることは、比較的少数の職員で多数の被収容者を処遇しなければならない刑事施設の秩序維持に大きな影響を与えるものであるから、これをもつて懲罰事由となすことは相当な理由があるものと解するのが相当である。

なお沖縄刑務所職員において、原告に対し暴言、侮辱を加える事態があつたことを認めるに足りる証拠はない。

八 上半身着衣拒否について

請求原因2の(三)の(1)の(オ)、同(四)の(1)の(カ)各記載の上半身着衣拒否の事実は当事者間に争いがない。

ところで後記一三の3記載のとおり、軽屏禁罰執行中の上半身裸体禁止は適法なものと解すべきであるから、前記上半身着衣拒否の事実をもつて懲罰理由と為し得るものと解するのが相当である。

九 指示違反について

<証拠略>によれば、請求原因2の(四)の(1)の(ケ)記載の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

一〇 裁量権の逸脱について

1 前記二記載のとおり、沖縄刑務所における点検方法は適法であるところ、本件処分が原告に対する報復として為されたものとは認めるに足りる証拠はない。

2 <証拠略>によれば、請求原因に対する認否及び被告の主張2の(三)の(1)の(イ)記載の各事実が認められる。他に右認定に反する証拠はない。

また前記二ないし九認定のとおり、請求原因2の(一)ないし(四)の各(1)記載の本件処分理由の事実も全て認められる(但し前認定のとおり懲罰の理由とならない行為は除く。)。

右各事実を総合すれば、原告は沖縄刑務所に在監中の昭和五一年一月一六日から翌五二年五月二五日までの間断続的に点検拒否、拒食(刑務所長には被収容者の健康を保持する義務があるから、被収容者は自らの健康を害する行為は為し得ないものと解するのが相当である。)などの紀律違反を繰り返していたこと、同年六月二一日以降は一貫して点検を拒否し、その間懲罰委員会出頭拒否、懲罰言渡しのための出頭拒否、懲罰・解罰診断拒否、取調べのための出房拒否、暴言、侮辱、上半身着衣拒否、指示違反などの各種紀律違反を断続的に繰返していたこと、そのため昭和五一年一月三〇日以降本件処分に至る前の翌五二年一二月二〇日までの間合計一四回の懲罰の言渡しを受けたこと、右一四回の懲罰は、叱責、軽屏禁罰に文禁罰の併科七日、同一〇日、軽屏禁罰一五日、軽屏禁罰に文禁罰の併科一五日三回、叱責、軽屏禁罰に文禁罰の併科一〇日、同二〇日、同二五日、同三〇日二回、同五〇日の順で言渡された事実が認められる。

3 ところで、法五九条、六〇条は、刑務所内の紀律違反について、各種の懲罰を科することができる旨を定めている。懲罰の目的が、もつぱら刑務所内の安全と秩序維持にあることに鑑みると、懲罰権の行使については、原則として、刑務所内の安全と秩序維持に責任を負い、且つ刑務所内の実情に通じている刑務所長の合理的且つ合目的的な裁量に委ねられているものと解するのが相当である。

したがつて、法令の範囲内にある限りは、懲罰の基礎となつた事実の判断に誤りがある場合、あるいはその懲罰が著しく不相当で明らかに裁量の範囲を逸脱していない限り、懲罰権の行使は違法とならないものと解するのが相当である。

ところで<証拠略>によれば、本件処分前である昭和五二年一二月八日付で福岡矯正管区第二部長は沖縄刑務所長に科罰基準参考案を送付し、沖縄刑務所長は右参考案に添つた基準の作成が求められたこと、科罰に際しては原則として右参考案に示された最高罰以下で運用する様に求められていたことが認められる。

右参考案によれば、抗命の最高罰は軽屏禁罰に文禁罰の併科五〇日(本件処分の理由となつた紀律違反のうち、暴言、侮辱を除くその余の点検拒否などの行為は抗命に該るものと解される。)、であるから、本件処分は右参考案に反するものではない。

また同種の紀律違反につき科罰日数を累増するか否かは原則として、各刑務所長の裁量の範囲内と言うべく、各刑務所には、各別の事情も存することに照せば、他の刑務所と運用を異にすることのみをもつて直ちにその懲罰が違法となるものではなく、本件全証拠によるも、沖縄刑務所長において、東京拘置所と同一の懲罰運用を為すべき事情は窺われない。

なお請求原因3の(二)の(2)記載の行刑局長通牒は、その文言に照して、未決勾留中の者に対する懲罰運用の凡その目途を示しているに過ぎず、直ちに右通牒に反する懲罰を違法とするものではない。

4 而して、<証拠略>によれば、本件処分当時、原告の点検拒否を始めとする各種の紀律違反行為により沖縄刑務所職員において処遇上困難を感じていた事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はないところ、これに加え、原告の紀律違反の回数、期間、従前の懲罰回数とその内容を併せ考慮すれば、前記四及び六記載の処分理由とならない行為を除いても原告に対し、軽屏禁罰に文禁罰の併科五〇日を科した本件処分が懲罰の種類の選択及び科罰日数の点で裁量権を逸脱した不相当なものとは認められない。

(なお本来処分理由とならない事由を誤つて処分事由に加えたとしても、それを除いた他の事由により同一の懲罰を科するのが相当である場合には、右違法をもつて、当該懲罰を違法とするものと為し得ないものと解するのが相当である。)

一一 軽屏禁罰執行内容の違法性について

請求原因3の(三)の(1)の柱書部分の戸外運動、房内体操、入浴の各実施方法(但し入浴についての曜日の点は除く)及び軽屏禁罰執行中は原則としてこれが禁止されていたことは当事者間に争いがない。

また軽屏禁罰執行中、戸外運動については一五日を超えるごとに一回実施していたこと、入浴については(週二回実施する一般の入浴を基準として)最初の二回の入浴該当日は湯で身体払拭をさせ、三回目からは入浴と身体払拭を交互に行わせていたことは原告において明らかに争わないところである。

法六〇条二項によれば、軽屏禁罰の内容は受罰者を罰室内に昼夜屏居させることとされているが、屏居とは罰室内に入れて室外に出さないことをいうものと解されるから、その性質上、室外に出ることを必要とする戸外運動及び入浴の禁止を伴うものと解するのが相当である。したがつて、軽屏禁罰執行中は規則一〇五条但書、一〇六条は適用されないというべきである。

また軽屏禁罰が、受罰者を独居拘禁させることにより謹慎させてその反省を促す目的を有していることに照すと、房内体操の禁止をもつて直ちに違法ということはできない。

また、戸外運動、房内体操、入浴などを禁止したとしても、受罰者の健康保持に支障のない限りは憲法その他の法令に違反しないものと解すべきである。そして本件全証拠によるも、前記の通常よりも制限された戸外運動などにより、原告の健康保持に支障が生じたものとは認められない(なお<証拠略>によれば、本件処分中原告が便秘であつた事実が認められるが、前記運動制限を緩和すべき程度のものとは認められない。また<証拠略>によれば、昭和五三年二月から三月にかけて、原告は眼病を訴え、専門医の治療を受けたことがあるが、軽屏禁罰の執行を停止する程度のものではなかつたことが認められ、前記結論を左右すべきものではない。)。

したがつて、沖縄刑務所長において、軽屏禁罰執行中、前記の限度で、原則として戸外運動、房内体操、入浴を禁止していたことは違法とはいえない。

一二 理髪、ひげそり、つめ切り禁止の違法性について

<証拠略>によれば、本件処分当時、沖縄刑務所においては軽屏禁罰執行中の未決勾留中の者については、理髪は衛生上必要があり、かつ本人の希望がある場合に、ひげそりは毎週金曜日に、つめ切りは本人の希望がある場合に金曜日に行うことになつていたこと、ひげそりについては本件処分中毎週金曜日に行つていたこと、理髪、つめ切りについては沖縄刑務所職員において原告の希望を拒否したことはないことの各事実が認められ、<証拠略>中右認定に反する部分は採用しない。

理髪、ひげそり、つめ切りに関する前記認定の運用は、法三六条但書に照しても違法とは認められない。

一三 座布団の使用、夏期の上半身着衣、着脱の自由、身体の横臥の禁止の違法性について

本件処分中、原告が座布団の使用、夏期の上半身着衣、着脱の自由、身体の横臥(午睡)が禁止されたことは当事者間に争いがない。

1 軽屏禁罰が、受罰者を独居拘禁させることにより謹慎させてその反省を促す目的を有することに照すと、軽屏禁罰の執行内容として受罰者の健康保持に支障のない限り、他の被収容者に認められている安楽措置の一部を禁止し、その反省を促したことの故をもつて直ちに違法と解すべきものではない。

2 而して軽屏禁罰執行中の座布団の使用及び身体の横臥(午睡)の禁止が原告に多少の苦痛を与えたことは否定できないものの、本件全証拠によるもこれが原告の健康保持に支障を及ぼしたものとは認められない。

3 沖縄刑務所においては、昭和五二年までは、夏期(六月から一一月ころまで)処遇として上半身裸体の自由を認めていたが、翌五三年より懲罰執行中の者については上半身裸体を禁止した事実は当事者間に争いがない。

また夏期においては、受罰者にはランニングシヤツの着用が義務付けられたことは原告において明らかに争わないところである。

ところで従前の上半身裸体の自由を認めていたのを受罰者に限りランニングシヤツの着用を義務付けたとしても、その変更の程度に鑑みれば、直ちに受罰者の健康保持に影響を及ぼすものとは認められない。

また<証拠略>によれば、昭和五三年五月ころ舎房の食器孔の下の鉄扉を取りはずして防虫網を取付け、舎房廊下の東西の鉄扉のガラス戸を取りはずして網戸にしたこと、六月ころ舎房廊下の窓の目隠しルーバーを三窓毎に上部のみ取りはずすなどの通風の改善をはかつたことの各事実が認められる。右認定に反する<証拠略>は採用しない。

右認定の様に沖縄刑務所における通風の改善が図られていた以上、上半身裸体をランニングシヤツの着用に変更することは合理的な根拠を有しており、特段違法視することはできない。なお処遇変更と通風改善が多少前後したとしても、通風改善を行うことが確定しており、且つその直近になされた限りにおいては特段問題にすべきものとは解されない。

4 以上のとおり、本件処分中、座布団の使用、夏期の上半身着衣、着脱の自由、身体横臥(午睡)を禁止したとしても違法とは解されない。

一四 獄内面接禁止の違法性について

<証拠略>によれば、原告は沖縄刑務所に拘禁されてから、遅くとも昭和五一年八月から同刑務所在監中、同刑務所所長、監理部長、保安課長に対して一般願箋を使用して面接を求め或いは種々の要請をなしてきたこと、本件処分中においても同様の方法により六回にわたり刑務所所長らとの面接を受けていることが認められ、<証拠略>中、本件処分中の獄内面接及び願箋筆述が制限された旨の各記載及び供述部分は信用できず、その他これを認めるに足りる証拠はない。

一五 数珠の所持、使用の禁止の違法性について

<証拠略>によれば、本件処分中、原告は数珠の所持が許されていた事実が認められる。<証拠略>中、右認定に反する部分は信用できず<証拠略>は本件処分後のことであり、その他右認定に反する証拠はない。

一六 一般人面会、信書発受、ラジオ聴取の禁止の違法性について

本件処分中、一般人面会、信書発受、ラジオ聴取が禁止されていたことは当事者間に争いがない。

前説示のとおり軽屏禁罰が受罰者を独居拘禁させることにより謹慎させてその反省を促す目的を有していることに照すと、他人との接渉に係る一般人面会及び信書発受を原則として禁止することは違法とは言えない。またラジオ聴取の禁止も前記軽屏禁罰の趣旨からすると違法とは言えない。

一七 文禁罰の違法性について

本件処分中の昭和五三年六月一六日から同月二〇日まで及び同年一一月一五日の合計六日間、原告に対し文禁罰が執行され、図書などの閲読、購入、所持及び筆記が禁止された事実は当事者間に争いがない。

ところで前記一〇の2認定のとおり、原告については、請求原因に対する認否及び被告の主張2の(二)の(1)の(イ)各記載の処分歴が認められ、右情状に照せば、原告に対し文禁罰を科するのは、違法とは認められない。

また本件処分において宣告された文禁罰の日数は合計二〇〇日であるところ、実際に執行されたのはわずか六日であること、<証拠略>によれば同年六月一六日からの文禁罰の執行は、同月一九日、二〇日の原告の執行停止要求に応じて、同月二一日から停止されている(右認定に反する証拠はない。)こと、本件全証拠によるも右文禁罰の執行によつて原告の提出すべき訴訟文書の提出が間に合わなかつたなどの実害が生じたとは認められないことなどを併せ考慮すると、右文禁罰の執行によつて、原告の防禦権の行使及び裁判を受ける権利を妨害したものとは認められない。

一八 結論

以上によれば(本件処分の理由中には一部処分理由とすべきでないものが掲げられていることが認められるが)、未だ本件処分そのものを違法ならしめるものとはいえず、またその執行内容にも違法な点は認められないから、その余の点を判断するまでもなく原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渕上勤 土肥章大 加藤就一)

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